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都市名:バンコック

氏名: 今井信行

都市の印象:
  カトマンズ、カルカッタを巡回してきた者の目には、バンコックは大都会に映る。鏡張りの超高層ビルが立ち並ぶ姿は近代都市そのものである。しかしそのバンコックの都市の印象を聞かれ、バンコックで何をしたかと尋ねられたら、車に乗っていましたと答えるしかない。チャオプラヤ河をはじめとして、運河や水路が網の目のように張り巡らされた水郷地帯に発展した都市だけに、地下鉄や鉄道などの整備が困難なのであろう。人々の移動手段は車だけである。公称600万人、実際は1000万人にもおよぶ人口が集中する大都市の移動手段が、自家用車にせよバスにせよオートバイにせよ車だけというのであるからその交通渋滞のひどさ、排気ガス、騒音などは驚きをとおり越えて非常識的である。さらに東南アジアの経済成長の盟主的役割を担っているのであるから、人口の増加、自家用車の増加など年ごとに加速しているという話であった。
若い女性が渋滞の中を、自家用車に一人のりして通勤する姿などは女性にも職場開放が進むタイ経済の実状を反映しているように思えた。オートバイの数も圧倒的で信号待ちの間に、無数のオートバイが渋滞の先頭に集まった。二人乗りのみならず三人乗りなどの姿も認められた。オートバイの運転手が皆、排ガスを避けるためにマスクをかけていたのも印象深い。
一方高層ビルが立ち並ぶ近代都市の横で、庶民の生活をみると、タイの人は自宅の炊事場で調理することが少なく、路上ににぎわう屋台などで食材を求め、自宅に持ち帰って食べることが多いとのことであった。さまざまな食材であふれていたが、日本のように保健所などの検疫が行き届いていないこともあって、下痢などの消化器感染症の機会が多いとのことであった。水道水はやはり飲用に適さない。
超高層ビルで代表される近代都市の一面と、大衆生活と隔差は、日本と比較するとはるかに隔たっている印象であった。

バンコックの医療事情:
 ネパールにせよ、カルカッタにせよ、こと医療に関して有事が起こった場合、まずバンコックにいかに搬送するかを考えるということからわかるように、東南アジアの中にあってその医療レベルには厚い信頼が寄せられているようである。
なかでもバンコックジェネラル病院、サミテイーヴェ病院などは邦人がよく利用する私立総合病院だそうだ。医療レベルが高いために、病院同士が医療レベルの差で競争するだけでなく、患者サービスとして例えば「日本語を話せる医師がいる」などといったことで病院の個性をアピールしているといった、他の巡回地域に比べれば贅沢なともいえる医療環境である。日本語を話せる医師といっても日本人の医師ではなく、日本の大学を卒業したタイ人医師である。上述の病院にはこのような日卒医と呼ばれるタイ人医師が何人かいる。また最近、小児科の井口先生が実際の診察はされないが、邦人の相談役とのことでサミテイーヴェ病院にアシスタントとして勤務されているので、邦人で日本語で悩みを打ち明けたい方は相談されればよいと思う。

一般にタイの医療保険制度は日本と異なり、国民保険制度がないために、患者は医療機関を受診した際に一度医療費を支払い、その後契約している保険会社に請求して補填を受けるという手続きを踏む。医療費を払えない低所得者には国が補助するが、この場合には大学病院や国公立病院の医療費相談窓口で相談することになる。従って、低所得者は国公立病院へ、高額所得者は私立総合病院を志向する傾向になる。私立総合病院のサービス競争もあり、病院は日本のように検査待ち、入院待ちという状況ではなく、万事速やかに対応し、入院に至ってはホテルのような環境を提供するところもあるようである。実際の医療費について日本と大きく異なる点は診察費、治療費、手術料などを医師が自由に決めることが出来る点で、そのために同じ病気であっても医療費には大きな差がでてくる。日本人で当地に赴任するような人は、たいてい海外傷害保険に加入して来ているので、病院としては医療費の確実な請求ができることから、軽症であってもただちに入院、手術を勧められたなどの事例を見聞した。医療レベルが高いわけだから、大きな間違いはないと思うが、海外派遣の日本人はこのような眼で見られているという一面も知っておいた方が良いかもしれない。
実際の医療に関する相談は、上述のほか、医務官ならびに、20,000人にも及ぶ在留邦人のお世話をされている現地日本人会の事務局に照会されれば、適切なアドバイスをいただけると思われる。
医療レベルは高いというものの、衛生環境は冒頭に述べたように充分とはいえず、また高温多湿の気候と相まって、雨期にはことに消化器感染症が発生するとのことである。 水道水は飲用に適さぬため、濾過の上に煮沸するなどの配慮が必要であるし、街頭で売られる多くの食材もなま物には手を出さないように注意するべきである。
赤痢、チフス、A型肝炎などの消化器系感染症はありふれた感染症であり、その他に結核はタイでは最もありふれた感染症であり、家庭内の使用人から飛沫感染する可能性があり、使用人の雇い入れ時、さらに年1回は、使用人の健康診断をするように勧められる。
これら感染症以外に今回の検診を通して直接感じたことは、前述の大気汚染の結果、呼吸器を傷め慢性の呼吸器障害に悩む人が多かったことである。 さらに都市部では自然に触れる機会が少なく、大渋滞の都会の中での生活のストレス、仕事のストレスが重なった人が多かったことなどに気づいた。日本から派遣され、職場には同僚と呼べる日本人が少なく、現地採用の人々とともに仕事をこなしていくストレスは相当のようであった。とくに独身者にはなお厳しいようで、30分以上にわたって連綿と語り続けた青年が印象深かった。このようにタイ、ことにバンコックでの邦人の健康問題として精神的ストレスという先進国共通の文明病を無視できない。メンタルヘルスケアの重要性を強調したい。
最後にエイズについて触れておく。東南アジアでは急増するエイズ患者が大きな問題になっている。タイ国保健省の推定では、約80万人が感染しているという。売春婦を中心に感染が広がっているようであるが、売春婦との交渉の後、感染を家庭内に持ち込む例が多く、徴兵時の検査(21歳男子)では4%が陽性とのこと、某日系企業の雇用時の検査では2%が陽性であったと聞いた。エイズはタイの市民生活に深く進入してきている様子であった。
性生活に関した話題として付記すると、在留邦人が20,000人を越え、現地で多種多様な邦人の生活が広がれば、妊娠出産なども問題になろう。通常の妊娠出産は当地でも問題ない印象であったが、いわゆる中絶はタイの社会通念では認容できない行為となるらしい。医学上、母体の健康に障害が及ぶと判断された例以外、タイでは中絶は認められないと認識すべきで、確実な避妊が望まれる。

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