都市名:カルカッタ
氏名: 今井信行
都市の印象:
17世紀、大英帝国の繁栄の一翼を担った東インド会社の商館が置かれ、また英領インドの首都としても栄えたカルカッタではあるが、現在はインド20余州のうち西ベンガル州の州都として、バングラデッシュからの難民受け入れとともに、人口1000万人を越える巨大都市となり、あふれる人口に都市機能がマヒしているように見える。
往来はスラム化し、バラック住居が並び、路上にも物乞う人々があふれている。折悪しく、訪れた時にはスコールの後で、道路に水があふれ、車体が泥水につかるような状態であった。邦人は皆ランドクルーザーのような4WD車を日本から個人輸入して使用しているような説明であったが、確かにこのような道路事情ではオフロード車が望ましいと思われた。
カルカッタの医療事情:
残念ながらカルカッタでの滞在は実質一日半に過ぎず、現地の実状を聴取、理解するには短かすぎたが、カルカッタ在住の日本人は現在60名あまりで、進出する企業の減少にともなって、在留邦人数も減少の傾向にあるとのことだった。さらにちょうど企業の人員交代時期と重なったためか、企業派遣の方々も半数近くが休暇を取られており、検診対象は政府領事館の職員や、一流企業の派遣員の方々約15名ほどの小人数であった。カルカッタの現状の中で、これらの日本人の方々は独自のコミュニテイーを形成し、自衛しているようであった。確かに垣間みた街の姿からは、そうする以外に自身の健康を守るすべはないように思えた。
大国インドであるから、おそらくお金を出しさえすれば薬品や衛生用品などはそろえることができるのであろうが、在留邦人の現地製品への期待は乏しく、石鹸やトイレットペーパーに至るまで日本から取り寄せたり、香港、シンガポールなどに出張した際に入手してくるようであった。また現地医療機関もあまり利用しているようではなかったが、丁度、邦人が三日熱マラリアにかかり、現地医療機関で治療されている旨の相談があった。しかしマラリアなどは今の日本ではまず見ることのない感染症である。クロロキンなどの抗マラリア薬も日本では入手困難の現状なのであるから、このような感染症については現地医療機関の経験の方が我々よりもはるかに勝ると思われる。疾病に応じては現地医療機関を利用するほうがよろしいかと思われる。カルカッタには医務官は常駐しておらず、バングラデッシュの医務官が兼務している。医療情報は現地日本人会の厚生部長や領事館に尋ねることになる。
マラリアやデング熱等はカルカッタではありふれた疾病である。むろん水道水は飲用に適さぬため、汚染飲料水などからの経口感染する感染性下痢なども多い。
このような土地での隔離的生活からの精神的ストレスや現地使用人とのストレスも大きな問題のように思われた。
最後に、カルカッタ領事館から頂いた西ベンガル医療情勢に関する話題を拾うと、
1)平成7年7月21日付け送信:
西ベンガル州では輸血を受ける患者の70%がAIDSを含む血液感染の危険性があることが、当地主要紙「テレグラフ」にて報じられたことを伝えている。それによると州政府が運営する56の血液バンクのうち、これらウイルスの感染の有無を検査できる設備を有しているバンクはわずかに13カ所にすぎないことがわかった。云々。
2)平成7年2月15日付け送信:
西ベンガル州6地区で採取した地下水から、1リットルあたり0.05mgの許容量を越える砒素が検出された。同州の405の村落で100万人以上の住民が砒素に汚染された井戸水を飲用しており、そのうち少なくとも20万人が砒素の毒性による皮膚障害をおこしていると言われる。云々。
3)平成6年1月14日付け送信:
カルカッタ市内の大気汚染は深刻であり、例えば発ガン性物質のベンザピレンの濃度は30から120ng/m3 であり、西側諸国で最も大気汚染が進んでいるとされるニューヨークの1ng/m3
に比べて2けた違う数値を記録している。云々。
4)平成6年3月22日付け送信:
当地「テレグラフ」紙の報じるところによると、全インド公衆衛生研究所微生物学部の調査によるとカルカッタ市内で販売されている一流メーカーの使い捨て用注射器と注射針48本を検査したところ、27本が種々細菌に汚染されていることがわかった。云々。
5)平成7年6月27日付け送信:
当地「テレグラフ」の報じるところによると、5月中旬から発生した日本脳炎は州内3地区において広まり続けており、少なくとも死者6名、感染者700名に達している。予防ワクチンの不足により、対策は困難を極めている。云々。
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