先端医学社の月刊誌「血圧」に町のお医者さんとして、投稿する機会を得ました。
ご推薦頂いた、大阪大学名誉教授 荻原俊男先生に感謝致します。
「開業医の視点」
医療法人社団 薫風会
いまい内科クリニック 今井信行
私は平成12年に、生まれ育った宝塚市で内科医院を開業しました。昭和59年に父が腎臓病で倒れ医院を閉じてから15年ぶりに、ほとんど廃墟のような状態であった医院に再びあかりを灯してから、早いもので今年の秋で丸8年になります。
父は腎臓病を患い最期は透析療法のお世話になっていたこともあって、私は高血圧・腎臓病を専攻しました。そして開業に際しても小規模ながら透析施設を備えました。週に3回も続けなければならない治療ですから、できるだけ家庭的な環境で医療を提供したいというのが開院時のコンセプトでした。
父の残した診療所に大幅なリフォームを行い待合室などはフローリングとし、外光を取り入れて明るい雰囲気にしました。いろいろなアメニテイも考えましたが、結果として最もアメニテイとして有効と思われるのは自然に始まる患者さん同士の会話でした。自然な会話ができるためには患者さんが場の雰囲気に和んでおられてこそ可能ですので、できるだけ安心を感じて寛いで頂けるように配慮しています。
開業当初より透析医療を充実させるために注力してきました。透析室のスタッフを確保するとともに、透析機器の管理、手技の統一、スタッフ教育など課題は今も続きます。次第にスタッフが増えて体制が整ってくると、透析室で行う医療だけでなく、それぞれの患者さんの生活はどうなっているのだろうかということが気になってきました。これは透析という医療が患者さんの生活に深く根ざしていることから、必然的に「生活の中での医療」という視点に関心が集中したのだと思います。
また病院勤務の時代は患者さんを医療の面から捉えるのみでしたが、開業医として日々の患者さんの生活を間近に見ることで、次第に患者さんの生活全体を診る開業医の視点が育ってきたのかもしれません。
その後高齢者の生活を支えるためには医療面だけでなく介護面からの支援も必要と感じましたので、平成17年から居宅介護支援事業所「ケアプランあかり」を作りました。複雑な制度を分りやすく提案するとともに、さまざまな社会サービスを組み合わせて生活支援を行っています。
外来診療では高血圧、糖尿病などの生活習慣病や、前任の病院で専門にしていたリウマチ診療などを行っています。外来を続けていますと往診や訪問診療の依頼があり、週に一度往診日を決めて在宅医療を行うようになりました。最近は医療改革の影響で病院での入院期間が短縮され、また療養病床の削減が進められており、今後も在宅医療のニーズはより高まると思われます。
そんな在宅医療の現場に出向きますと、がんなどの重病や難病になられて自宅で過ごされる場合、そのような病気の身では出て行くところもなく面倒を看てくれる場所もない現実が気になってきました。
そこで、このたびクリニックの近くに民家を購入し、平成20年10月から「在宅療養支援ハウス 中州・有隣荘」と呼称して、デイサービスを開始することにしました。当医療法人が経営しますのである程度医療的な配慮も可能ですので、点滴、胃ろうなど医療処置の必要な方にも対応できます。患者さん本人にはデイサービスでの食事や入浴で寛いで頂きたいと思う一方で、看病を続ける家族の方にもレスパイトに利用して欲しいと思っています。
住み慣れた町でいつまでも住み続けたいという願いを実現するために、これからも生まれ育った町でクリニックと介護事業所とふたつの拠点を中心に、医療と介護の両面の視点を持って来るべき高齢社会に備えたいと思っています。
今回、貴誌に投稿する機会を頂きあまり学問的な話題ではありませんが、私の開業以来の視点の変化と歩みをまとめてみました。原稿を書く機会を与えて頂いた恩師大阪大学名誉教授、荻原俊男先生に感謝致します。
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