透析室だより(1)
〜透析の原理と、透析液清浄化の重要性〜
いまい内科クリニック 透析室
臨床工学士 平川雄一
人工透析とは、失われた腎臓の機能を代行しようとするものです。
腎臓の働きには、(1)身体の中の水分量を調節する (2)体内に不要になった老廃物を除去する (3)身体を弱アルカリ性にする (4)体内の電解質(Na、K、Cl、Ca、Mg等のイオン)の調節 (5)造血ホルモンの分泌(エリスロポエチン) (6)ビタミンDを活性化させるF血圧を調節するホルモンの分泌などがあります。
この中で人工透析では、(1)、(2)、(3)、(4)、の働きを代行しています。
残りの(5)、(6)、(7)の機能は人工透析では代行できないため、種々の薬物を用いて代行します。
それでは、人工透析とは、どのように行われているかご存知でしょうか?
透析の原理は、「拡散」と「限外ろ過」という現象です。
これらは、どのようなものなのでしょうか?
「拡散」とは、例えば、水の中に赤いインクを一滴落としたときに、初めは、赤いインクが固まってあるように見えたものが、かき混ぜなくても全体が、薄い赤い色に変わっていくような現象を言います。これは濃度に差がある液体同士が、均一に混じろうとする現象です。
人工透析では、この拡散の現象を利用して老廃物の除去や、電解質の調整などを行っています。
「限外ろ過」とは、例えば、すりおろしたりんごを、ガーゼにつつみこみ手で
絞ると、ジュースが搾り出るというような現象の事です。
圧力のかけ方としては、ガーゼの上から、ストローを使いジュースを吸い込むという方法も同じ現象になります。
これは、すりおろしたりんごにガーゼ越しに圧力がかかる事により、ガーゼの穴より細かい果実と、果汁が、ガーゼの外に移動するような現象です。
人工透析では、この現象を利用し、機械の中で血液側と透析液側の圧力を調節することにより血液から過剰な水分を引きだしています。
実際にこのような現象は、ダイアライザーと呼ばれる筒状の透析器で行われています。
ダイアライザーとはどのようなものかというと、筒の中には、髪の毛ぐらいの太さの『ストローの様なもの』が約1万本入っています。
この『ストローの様なもの』の内側を血液が流れ、外側を透析液と呼ばれる液が流れています。
この様にダイアライザーの中では、直接血液と透析液がまじわるのではなく、『ストローの様なもの』には、内側と外側を隔てる薄い膜があります。
この膜には、多数の小さな穴が開いており、膜を隔てた内外で、先ほど説明した「拡散」及び「限外ろ過」が行われます。
最近は、ダイアライザーの進歩により、BUNやクレアチニンといった分子量の小さな尿毒素だけでなく、透析アミロイドーシスや、手根管症候群の原因だとされる「β2-ミクログロブリン」と呼ばれる比較的大きな低分子蛋白までも取り除くことができるようになりました。これは、ダイアライザーの中の膜に開いている穴の大きさを調節することにより、大きな分子量の尿毒素を選択して取り除き、身体に必要な成分は取り除かないということができるようになったということです。
ダイアライザーの中を流れる透析液は、透析液の原液を約35倍に希釈して作ります。つまり、透析液を作るには、大量の水が必要なのです。
当院では、4時間透析の方で、大体1人1透析あたり108LぐらいのRO水と呼ばれる水が必要になっています。ここで言うRO水とは、簡単に言うと『純水(まじりっけのない水)』のことです。1回の透析で一人当たりに使用する108LのRO水を作るには、水道水が約180L必要になります。これは、浴槽1杯と同じくらいの水の量です。
この『純水』であるRO水を作るには、水道水に様々な処理が必要になります。
(1) 水道水を、フィルターに通し、不純物を取り去る。
(2) カルシウムなどのミネラル成分を含む硬水から、ミネラル成分を含まない軟水に変換する。
(3) 水道水に含まれる塩素を取り除く。
(4) 水道水が通る膜に圧力をかけ、RO水と呼ばれる『純水』を搾り出す。
このような工程を経て、水道水からRO水を作り、これで透析液の濃度を調整し、透析を行います。
なぜ水道水ではいけないかというと、まず水道水には、消毒の為に、塩素が入っています。これが血液の成分を壊してしまいます。それと、安定した濃度の透析液を供給しようとすると、水道水中に含まれる、カルシウムやマグネシウムなどで濃度が不安定になる為、RO水が必要になります。
しかし、RO水には消毒剤が入っていない為、細菌などによる汚染を考えなければいけません。この指標になるのが、「エンドトキシン」という物質です。
「エンドトキシン」とは、ある細菌から出てくる毒素の呼称であり、細菌による水質汚染があるとこの値が上昇します。人工透析中に、血液と直接ではないにしろ、薄い膜一枚で接しているわけですから、「エンドトキシン」の値をなるべく低い値で維持することが大切になります。
清浄化した透析液を用いた透析では、腎性貧血が改善することにより、エリスロポエチンの投与量を減らすことができる事や、「β2-ミクログロブリン」の低下、栄養の指標である血中アルブミンの改善、なにより患者さんの元気さに違いが出てくることが報告されています。
このため、清浄化した透析液をいかに供給できるかという事が大切になってきました。
当院でも、この透析液の清浄化には積極的に取り組んでいます。
その結果、下の表に示すように、当院の透析液は患者様直前のエンドトキシンは、いずれも測定感度以下であり、皆様の元には「清浄化した透析液」をお届けすることができているとご報告できます。
2004年 日本透析医学会 |
いまい内科クリニック 測定値 |
透析液水質基準 |
2004年3月 |
2004年8月 |
2005年3月 |
RO水エンドトキシン |
目標値 |
<10EU/ML |
<1.9EU/ML |
<2.2EU/ML |
<2.4EU/ML |
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最大許容値 |
<50EU/ML |
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透析液エンドトキシン |
目標値 |
<1EU/ML |
測定感度以下 |
測定感度以下 |
測定感度以下 |
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最大許容値 |
<50EU/ML |
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