Am J Kid
Dis 31; 607-617, 1998.
6407人の末期腎不全患者を対象にした研究の結果、高リン血症は死亡危険率の有為な危険因子であることがわかった。この研究では、リンの値が6.5mg/dl
を越える症例では、死亡率が27%上昇することが明らかにされた。
これは性別、年齢、などを合わせても、この危険率は変わらなかった。
一方で、50%の患者さんが、6.0mg/dlを上回った。
同様に、カルシウムリン積が、高値を示すものは、死亡率が34%上昇することが、明らかにされた。
どうして、末期腎不全においては高リン血症が死亡率を上昇させるのか? そのメカニズムはなんであろうか?
高リン血症は
1) 2次性副甲状腺機能亢進症を悪化させる。
2) 軟部組織の石灰化を促進する(ことに心臓石灰化症やCalciphylaxis)
3) Vit D による副甲状腺ホルモンに対する抑制の抵抗性。
伝統的にPは、カルシウムの低下を招いて、副甲状腺を刺激することが知られている。しかしながら、最近の研究ではPは直接的に副甲状腺を刺激することが知られている。
低リン食は、PTHレベルを低下させることが知られている。(カルシウム値や、Vit D値を上昇させることなく) イヌにおいては、リンの制限は、二次性副甲状腺機能亢進症を改善することが知られている。
ヒトでも透析患者においては、リン値依存性にPTHの値が変化することが知られている。これらの所見はリン値が直接的にPTHの分泌を制御していることを明らかにしている。
リンが副甲状腺細胞の細胞膜組成に影響を与えたり、またカルシウムチャンネルに影響を与えたり、VitDのレセプターに影響を与えることを示している。
またリンが直接副甲状腺細胞の増殖を促したり、あるいはリンの低下がPTHの転写後のmRNA量を減少させることが知られている。
以上のことより、最も大切なことは、どのカルシウムの値においても、 リン値をコントロールすることは、副甲状腺機能を改善し、PTHの値を低下させることに有用であるということである。
【軟部組織の石灰化】
末期腎不全において、高リン血症が、有病率、死亡率に影響を及ぼすもう一つの理由は、異所性石灰化のためである。 心臓の石灰化を取り上げてみると、心臓の石灰化は60%程度の患者に認められる。心筋、心外膜、伝達系、弁、細動脈、冠動脈に認められる。
心臓の石灰化を促す因子としては
PTHの上昇、
組織のアルカリ性 リン値の上昇
カルシウム値の上昇
カルシウム*リン積の上昇などが、危険因子と考えられる。
これら6407人の追跡調査の結果からは、リン値が6.5mg/dlを越えるものでは、冠動脈疾患による死亡が高値であることが分かった。危険率は52%も高値であった。また冠動脈の石灰化は冠動脈疾患の予測因子であることが示された。
他の論文でも、リンのコントロールが悪いものでは、冠動脈の石灰化を招き、ひいてはリン高値の透析患者の高死亡率に繋がっているとする論文に同じである。カルシウムリン積、年齢、透析歴、透析導入以前の高血圧歴が石灰化と有意の相関をもつ。継続的なカルシウムリン積の異常が透析患者の心臓石灰化を促す因子であると考えられる。血液透析患者においては、カルシウムリン積の上限は、70mg2/dl2である。またCAPDにおいては、55mg2/dl2が境界線と考えられる。
ある透析患者の石灰化を追跡したところ、カルシウム、リン、カルシウムリン積が高値をとる2年後より石灰化が明らかになったが、最初の石灰化の兆候は、むしろリン値が低値であった時期に認められた。リン値以外の因子が組織の石灰化に関与していると考えられる。
心筋梗塞や、加齢による心筋の変性、高血圧などの存在が異所性石灰化を引き起こすと考えられる。
その他の因子で心臓の石灰化と関係のあるものは、カルシウムリン積のカルシウム側の問題である。アルミニウム含有のリン吸着剤の使用が問題であることから、カルシウム含有のリン吸着剤が使用されるようになった。
同時にVitDの使用が始まった。これらの大量のカルシウム負荷が異所性石灰化の原因になりうるかどうか、今後の研究課題である。
RenaGelのような、カルシウムフリー、アルミニウムフリーのリン吸着剤がどのような効果を見せるか、臨床報告が待たれる。
【 Calciphylaxis 】
Selyeが1962年に初めて全身に石灰化がおこる症候群を示した。 そして動物実験で、この石灰化には2段階が必要であることを示した。第一段階は全身的な準備段階で、PTH高値、VitD、Ca、リンなどで規定されるものである。第二段階は、ある時間(critical
period)の後に、何らかの外因性の刺激が皮下に注入された際に局所で2-3日以内にできあがるカルシウム塩の沈着である。Selyeはこれを"calciphylaxis"と名付けた。
数年の後、末梢の虚血性組織壊死、小動脈の石灰化、、皮膚潰瘍を示す尿毒症患者が報告された。これがSelyeのモデルに類似していたことから、あらためて
calciphylaxisという言葉が、患者の病態を示すものとして用いられるようになった。
しかし、Selyeのモデルは全身性の石灰化がおこるものの、その部位は外因性に刺激を受けた部位に限られており、また血管の石灰化を伴わないと言う意味でselyeのモデルとは異なっていた。Selyeのモデルに似ていると思われたものは、尿毒症性の異所性石灰化症であった。
尿毒症患者に見られるcalciphulaxisは、小血管に石灰の沈着が見られている。
初期の観察では、副甲状腺摘除術が、これらのカルシウム沈着を改善するという結論に至った。2次性副甲状腺機能亢進症は、透析導入早期においても見られる一方で、calciphylaxisはさほど頻繁に見られるものではない。
Calciphylaxisが認められる、患者の皮膚ではカルシウム含量が多いという報告がある。 カルシウム透析液が高いものの方がおこりやすいと言う報告もある。
また高いカルシウム透析液濃度では、軟部組織の石灰化が悪化するという報告もある。 透析液のカルシウム濃度を下げることで、石灰化の改善を見た症例もあるという。
また多量の炭酸カルシウムの内服でこのような症状が起こった症例もあるという。
カルシウム含有のリン吸着剤の使用が一般的となっていること、 多くの透析患者が、栄養食品的にカルシウムを摂取していること。 またある人は calciphylaxisは、リン高値の時期に続いておこるということ、
リンのコントロールが、このcalciphylaxisの状態を著明に改善したこと、などが報告されている。
さらに最近の報告では、このcalciphylaxisは、PTHがほぼ正常のヒトにおこったことも報告されている。
肥満のCaucasian 女性、脂肪組織の小血管が石灰化しやすい
IDDMで見られやすい
インスリン注射部位でおこりやすい。
必須の治療方針としては
カルシウムリン積を改善する。
二次性副甲状腺機能亢進症を改善する。
リンの改善
正常あるいは低カルシウム透析液の使用。
炭酸カルシウムの使用は控える。
将来的には、カルシウムを含まないリン吸着剤の使用が望ましいのではないか
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