(第43回、日本透析療法学会にて発表した要旨である。)
【はじめに】
維持透析患者の生存率が向上するにつれ、良好なブラッドアクセスを確保することは、従前にもまして重要である。現在でも最も普及したブラッドアクセスとしては、自己血管を吻合する内シャントである。内シャント不全をもたらす最大の要因は血栓症であり、DOQIによる集計でも、80%以上の内シャント不全が血栓症によると言われている。
今回、我々は急性血栓性に内シャント閉塞をきたした一例を経験した。カテーテルインターベンションを行いながら、その手技を振り返るとともに、カテーテルインターベンションの有用性、内シャントのメンテナンスについて考察する。
【症例】37才。女性。
【現病歴】平成6年3月に近医を受診、血清クレアチニンが6.8mg/dlと腎不全状態を指摘され、当院紹介受診。以後保存的に加療されるも、次第に腎機能の悪化を認めた。
平成11年3月、BUN113mg/dl、クレアチニン8.76mg/dlとなり、内シャントを作成し、透析に備えていた。その後も小康を続けていたが、平成11年11月29日、突然シャント音が聴取不可能となり、受診した。
【現症】シャントは左上腕に、型どうり橈骨動脈と尺側皮静脈を吻合して、作成されていた。受診時にシャント吻合部は、スリルを触れず、シャント音も聴取しなかった。シャント血管は膨らみを失い、表皮は赤紫色にまだらに変色し、腫脹していた。一見して、血栓による急性シャント閉塞と診断された。
【1】シャント静脈を穿刺し造影剤を注入したところ、シャント内に充満する血栓を認めた。シャント血管から、ウロキナーゼ24万単位、ヘパリン5000単位を注入するも、これではシャント内血栓は溶解しなかった。シャント血管の内圧上昇のために患者は疼痛を訴えた。
【2】シャント静脈よりアプローチし、逆行性にバルーンカテーテルを挿入し、バルーンを拡張させるも、血栓の溶解も、血流の再開も得られなかった。
【3】シャント静脈から逆行性にアプローチし、吻合部にガイドワイヤーを通過させようとしたが、吻合部を越えることができなかった。またシャント静脈内には有意な狭窄を認めないことがわかった。シャント動脈側から造影したところ吻合部は描出されなかった。
【4】シャント動脈側から血流に対して順行性にガイドワイヤーを挿入したところ、ワイヤーは吻合部位を越えた。
【5】シャント動脈側から造影したところ、吻合部直前で動脈は先細りしており、狭窄は比較的長距離に及ぶことがわかった。シャント閉塞は吻合部狭窄に合併した血栓症が原因と考えられた。
【6】閉塞の原因がシャント吻合部の狭窄にあると考えられたので、シャント動脈側から血栓溶解剤を注入するとともに、狭窄部に対しては、ガイドワイヤーをpull
through法にて操作し、またオーバーカテーテルを被せることで、狭窄部位を拡張することにした。この狭窄部位でのバルーンカテーテルによるPTAは施行しなかった。
【7】以上の処置にて、血流の再開、血栓の溶解が見られた。
シャント閉塞の原因が、吻合部狭窄にあると思われる症例の場合、あるいは血栓が動脈側に及ぶ場合には、シャント動脈側からのアプローチの方が、血栓の溶解、血流の再開を得る上で、有効であったと思われる。
最近、血液透析患者の内シャントを管理する上で、比較的侵襲のすくない、カテーテルインターベンションが普及してきている。 内シャントに対するカテーテルインターベンションは、1)吻合部近傍に発生した物理的狭窄ゆえの血流量の低下に対するバルーンカテーテルを用いた血管内腔拡張術(PTA;
Percutaneous transluminal angioplasty)。2)血栓性閉塞に対するパルススプレーカテーテルや、ハイドロライザーカテーテルによる血栓除去術。3)シャント血管の狭窄による静脈高血圧症などが適応になると思われる。
しかし、このような末梢血管に対するカテーテル血管内径拡張術は、内腔の50%から70%狭窄病変が最も適当なPTA病変であると考えられているが、これら病変の平均開存期間はおよそ6ヶ月である。最近これら内シャントの開存期間を延長するために、ステントなどの留置も試みられている。
しかしながらDOQIの勧告はこれらステントの有用性を認めていない。内シャントのような末梢血管の再建には、手術的再建が最も有効であるからである。一方90%以上の高度狭窄病変については、3ヶ月開存期間はわずかに4ヶ月といった報告もある。
しかしながら、前述のように内シャント閉塞の原因の大半を占める、血栓性閉塞に関してはカテーテルインターベンションは本例に示すように有効である。カテーテルインターベンションによる血栓除去は、速やかに実施できて、血流の再開を得ることができる。早期の血流回復は既存のシャントを温存することにつながり、内シャントのメンテナンスとして有用な手段と考えられる。
【結語】 内シャントに対する、カテーテルインターベンションは、血栓性病変、ことに急性血栓性内シャント閉塞に対して有効であり、既存の内シャントを温存することができる有用な手段である。
【まとめ】 私が経験した、急性内シャント閉塞例である。従前であれば、このように急性内シャント閉塞を起こし、血栓のため皮膚色調も変色するような例の場合では、たとえ早急に血栓除去術を施行したとしても、既存シャントの復活は困難であることが多い。血栓が充満した血管は内皮が障害され、一時的に血流が回復したとしても再狭窄をきたしやすい。
そのためになによりできるだけ早い時期で血流の回復をはかることが血管の損傷を最小限にできると思われる。
上述のように急性内シャント閉塞は80%以上が血栓が原因である。
カテーテルインターベンションは、バルーンで血管内腔を拡張するPTA法や、血栓溶解剤を注入する方法などいろいろな方法がある。それぞれ単独に行われるものではなく、血管病変においていくつかの方法を組み合わせて行うものではあるが、カテーテルインタベンションは速やかに血流の回復がえられ、血管拡張術を併用することで、透析に必要な血流も回復することができる可能性がある。
内シャント閉塞時には、その病変においては考慮すべき治療法であると思われる。
欠点としては、術後の安静が必要なこと、疼痛対策、カテーテル刺入部からの出血などの問題が挙げられる。学会場でお会いした東京の某外科医は術前に腋窩神経ブロックをおこなっているとのことであった。
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