一般に透析者の栄養状態については、日本腎臓病学会から提案された食事療法のガイドライン(文献1)、およびアメリカのHandbook
of Dialysis邦訳(文献2)といずれをとってもほぼ同様の指導内容と思われます。
ここで体重あたりとしているのは、あくまで現在の体重ではなく、標準体重であります。標準体重は簡易には、(身長-100)*0.9で計算します。もし身長が160cmであれば、標準体重は54Kgとなり以下、この値を基準に話を進めます。 |
標準体重54Kgとしますと、
必要摂取カロリーは、35cal/Kgであり、54*35=1890カロリーとなります。必要蛋白質は、1.0-1.2g/Kgであり、54*(1.0-1.2)=54g〜65g程度となります。
【炭水化物】
カロリーのうち、55-60%は炭水化物(食品交換表の表1ならびに表5の食品)で摂取するべきとされていますので、およそ1000から1100カロリーは炭水化物から摂取するべきとされていますが、これを3食に分けて摂取します。
(栄養学的には一日の摂取カロリーがおなじでも、1食を抜いて、一日2食で摂取する場合と、一日三食に分けて摂取する方では、食事のバランス、他の栄養素の摂取への影響などの面で、きちんと三食に分けて摂取する方が望ましいといわれています。あらためて三食の食事をきちんととること、また折角計算してつくった食事を食べ残すことのないように、しましょう。)
食品交換表第6版の53ページ、ないし56ページの食事を参考にしますと、それぞれ2000カロリー越えの食事に対して、表1からは5単位の食品が選ばれていますので、少なくともこの分配に従った主食をとるようにしましょう。
パン8枚切り、1枚(40g)が1単位で蛋白3g、100カロリーです。 ご飯は小茶碗一杯(米飯120g)で、蛋白3g、180カロリーです。
カロリーを考えた場合は、交換表97ページにありますように、それぞれの食品のカロリーが平均カロリーの150カロリーより高いものを選ぶようにして、カロリー不足にならないようにしましょう。 |
これら主食以外の炭水化物は、表5にある砂糖、甘味料を工夫してとるようにします。53ページの例では、朝食にジャムやハチミツをとりいれたり、56ページの例では、カロライナーをもちいて、300カロリー程度のカロリーアップを計画しています。
【カロライナーなどの低甘味ブドウ糖重合体】
カロライナーをはじめとする、低甘味重合体の特性などは(文献3)を参 考にしていただきたいですが、(文献4)には食事への応用についてのヒントが記載されていますので、カロリーアップに用いて欲しいと思います。
カロライナーが最も甘味が低く抑えられてあるそうです。 値段は労災病院の売店では980円 / 1Kgです。労災病院か神戸医師協同組合から購入するのが安そうです。
粉飴、テトラスターも同じ低甘味重合体です。値段はカロライナーの半分くらいのようです。
(文献5)の1960ページ、(文献6)の1977ページに記載されるように、現実的には透析患者の多くが推奨カロリー量には及ばぬ食事摂取量であり、栄養指導としては、今回渡邊さんに行ったように、エネルギー不足対策が多いとの記述は、日常臨床を通じて、切実な問題として感じます。
【蛋白質】
蛋白質は60g程度必要になります。蛋白価の高い良質な蛋白質を中心にとるように、一方でリンを採りすぎないような工夫が必要です。
Handbookの266ページにあるように、卵は高い蛋白価から完全栄養食品といわれています。とくにコレステロールの異常がない場合は、一日一個の卵の摂取は勧められるべきと考えます。これで一日に必要なアミノ酸は供給されます。
ただし全卵一ヶで、蛋白質は2単位(6g)、リンは100mgが採取されます。
その他に肉、魚などの良質の蛋白質を10単位とります。 後述の脂肪の組成を考えると、飽和脂肪酸を多く含む獣肉だけでなく、不飽和脂肪酸を含む魚肉も忘れずに採りたいところです。
たとえば牛肉、豚肉、とり肉であれば1単位は15gですし、リンは20-30mgです。さかなもほぼ1単位は15gですが、リンの含量が高くなります。シシャモやシラス干し、丸干しなどはリンの含量が高くなるので注意が必要です。
ハム、ベーコン、みりん干しなどなど加工食品はリンの含量が高くなるので勧められません。
ですからできるだけ新鮮な肉類を購入し、前述のカロリーアップを考えると、油脂類で調理して、カロリーを保つように工夫しましょう。エネルギーを高める調理法については、食品交換表の78ページに載っています。
【低リンミルク】
ミルクはカルシウムをふくみ、有用な食品であるが、普通ミルクでは100mlあたり、1単位(3g)の蛋白質を含むと同時に(交換表120ページ)、リンも100mg(1mg/ml)含む計算になり、リン含量は高い。
低リンミルクLPK(クリニコ;Azwell?20g*15個、1200円)、(森永乳業で15個、980円)は、リン含量が、5分の1に抑えられており、有用な食品と思います。
【MCTオイル】
いわゆる中鎖脂肪酸と呼ばれるもので、その特性等については文献7に詳しいですし、文献8には調理への応用が記載されています。 値段は文献9にはマクトンオイル450gが2660円になっていますが、Azwellを通すと、3260円になっています。
このような治療用特殊食品は、卸によって値段がさまざまですから、文献9を頼りに、個人で値段を調べるか、私が開業した折にはこのような食品を購入して、小分けできるようにしますので(もちろん原価でしたいと思っています)、またご利用ください(余談です)。
【食物繊維】
最後に、食物繊維について、記載します。 透析患者さんには便秘の方が多いことは、周知であります。 水分の制限や、上述のごとく脂肪分の多い食事、新鮮野菜の少ないことから、必然的に便秘傾向となります。(文献10参照)。
このような点から、食物繊維の摂取が望まれますが、透析食からの制限から、現在望まれる、食物繊維の条件を満たしたものは、扶桑薬品から販売される「セルリーハイ」のようです。(Azwellでは90粒*5袋で2000円とのこと。)
8粒でレタス1個分の食物繊維という歌い文句を信じれば、さほど高いものではないかもしれません。 簡便さという点では、ファイブミニに代表される、水溶性食物繊維が有用のようです。(文献10参照)。
【ビタミン】
ビタミン類の摂取については、文献2のHandbookにまとめがあります。 ビタミンAとCは取りすぎに注意しなければなりません。動脈硬化対策にビタミンB6や葉酸の必要性が叫ばれています。
またカルニチンという脂肪酸の補酵素が有用であることも指摘されています。 透析者の食事についてまとめてみました。 もちろん、通常の食材のみで必要量がまかなえればそれに越したことはないのですが、種々の制限から、それは必ずしも容易ではなく、そのために治療用特殊食品が開発されてきたのでしょう。
最後に、まとめてみれば
1) カロライナー。
2) マクトンオイル、およびマクトンパウダー。
3) 低リンミルク。
4) テルミールやレナウエル3などの高カロリードリンク。
5) 食物繊維
以上は、可能であれば身近において、毎日の食事の中に積極的に取り入れていただきたい腎疾患治療用食品であると考えられます。
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