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ボタン これだけは注意しておきたい血液検査の、ちょっとトリビアな知識について  ボタン

平成16年7月25日
いまい内科クリニック患者会によせて

赤血球(×104/μl)、ヘモグロビン(Hb)(g/dl)、ヘマトクリット(Ht)(%)

いずれも貧血の指標です。赤血球は、単位体積あたりの赤血球の個数です。透析者では、330-390×104/μlがおよその正常範囲です。ヘモグロビンは同じく単位体積あたりのヘモグロビンという酸素を運搬する色素タンパクの量を表します。透析者では10.0-11.7g/dl.が望ましい数字とされます。ヘマトクリットは、血液中で赤血球の閉める体積を示しています。透析者の目標値は30.0-35.0%程度です。
透析者では、エリスロポエチンと呼ばれる腎臓で作られるホルモンが不足することから、貧血傾向になります。これを是正するには適正なエリスロポエチンの投与が必要なことは勿論ながら、造血に必要な原料になる鉄が適当量存在することが重要です。透析者は毎回のダイアライザーの残血や、検査のために年間約2gの鉄を喪失すると言われています。
わが国の健康保険では、エリスロポエチンの適正使用では、ヘマトクリットを25-30%に維持することが勧められていますが、最近の傾向ではもう少し高いヘマトクリットに維持する傾向にあります。
 余談ながら、一般には貧血の有無はヘモグロビンの多寡で判断されます。透析例では、ヘマトクリットが判断の指標に使用されるのは慣用的と思います。

 鉄欠乏かどうかは、@血清鉄(Fe)、A総鉄結合能(TIBC)を測定して、Fe / TIBC <20%、あるいは、血清フェリチン濃度が100ng/ml以下などを参考にします。鉄欠乏が明らかになれば、毎透析ごとに13回、あるいは週に1回3ヶ月間の投与と期間を区切って投与することを勧められています。投与するエリスロポエチン量は、1回あたり1500から3000単位として、週当たりHbにして、0.3〜0.4g/dl(ヘマトクリットにして、1%/週)を越えないようにすることが大切です。急な貧血の回復は、血圧の上昇や血栓症などのリスクを増やすからです。
エリスロポエチンを投与していても、充分な造血が得られない原因としては、ACE阻害薬の投与、カルニチンの欠乏、不十分な透析、ビタミンC欠乏、ビタミンE欠乏、亜鉛欠乏などの関与が考えられます。(2004年版、慢性血液透析患者における腎性貧血治療のガイドライン、日本透析医学会)

アルブミン
 血中のたんぱく質と呼ばれるものを電気泳動すると、大きく分けてアルブミンと呼ばれるものとグロブリンと呼ばれるものに大別されます。このうちアルブミンは肝臓で合成されます。肝臓のタンパク合成能力が充分であったり、経口摂取した栄養が充分に吸収され、充分な透析が行われている場合には、アルブミンは高値を保つことになります。一方、透析が充分に行われず、尿毒症状態が続くと体タンパクの異化がおこり、体は消耗しアルブミンは低下します。
アルブミンは血管内にあって膠質浸透圧をもたらします。すなわち充分なアルブミンは適当な水分を血管内に保持することができます。逆に低アルブミン血症では膠質浸透圧が低下し血管内に水分を保持することが出来ず、水分は血管外に染み出しますので浮腫の原因になります。

尿素窒素
 尿素窒素(BUN)という値は、およそ腎臓病、とくに透析を受けておられる方にはもっとも耳慣れた検査項目かもしれません。たんぱく質はアミノ酸からなっていますが、アミノ酸にはアミノ基と呼ばれる(−NH2)構造があり窒素を含んでいます。この摂取した窒素を動物は、アンモニア(NH3)、尿酸、尿素など自分たちの生息環境にあった方法で体外に排泄します。
アンモニアはたいそう有害ですが極めて水によく溶けます。それで水の豊富な場所に棲むたとえば魚類は、窒素をアンモニアというかたちで排泄します。一方、尿酸は水には難溶性で結晶化しますので、水が利用できない卵胎生の鳥類、両生類、爬虫類では窒素を尿酸というかたちで排泄します。ヒトなど哺乳類は窒素を尿素というもっとも無毒なかたちで処理することができます。
 ヒトでは摂取したアミノ酸は肝臓に運ばれて尿素回路とよばれる代謝を受けて、“尿素”に代謝され腎臓から体外に排泄されます。 腎機能正常者では、血中の尿素窒素(BUN)は、8-20mg/dlの値が正常範囲ですが、 透析患者の場合、透析前で70-90mg/dl、除去率60%以上、Kt/V>1.2が勧められています。

 尿素窒素(BUN)は尿毒症物質の代表的なものです。分子量は約60と小分子ながら、透析によりこれら小分子の尿毒症物質が効率よく除去されることで、多くの腎不全症状が改善します。ですから透析効率の指標に用いられます。
ここで尿素の除去率とは、R=1-(BUN後/BUN前)で現されます。
Kt/Vもよく目にする数字ですが、これは透析による尿素の除去が、指数的に減少することに注目した指標です。
Kt/v= -In(1-R) = -In(BUN後/BUN前)

t透析時間と、v尿素の分布スペース(体液量)と、kダイアライザーの尿素除去能力を現しています。この式では、時間や除水の影響が無視されているので、下記のようにDaugirdasによって補正された式があります。この式では、透析時間が長いほど、また、除水量が大きいほど、Kt/Vは大きな値が出ることに注意が必要です。
Kt/v = -In (BUN後/BUN前 - 0.008t- UF/DW)
どの式が、最も信頼できて実用的であるかは、難しいところですが、いずれにせよ、Kt/Vという透析指標があり、1.2以上が望ましいとされています。

クレアチニン
 クレアチニンはクレアチンという物質から、筋肉内で合成される分子量114の小分子です。
クレアチニンという物質が、腎機能の指標として重要視されるのは、クレアチニンは小分子で血流に乗って腎臓の糸球体に運ばれた際に、そのまま糸球体をろ過され、尿細管で再吸収も分泌もされずに尿中に排泄される物質だからです。
ですから、血中と尿中のクレアチニンを同時に測定することで、比較的容易に糸球体ろ過量(GFR)を調べることが出来ます。 以上より、クレアチニンは腎機能の代名詞のように利用されていますが、先述のように筋肉内で合成されるので、筋肉量の多い男性では高値をとる傾向にあります。
透析導入後は、尿毒素という意味からは、尿素窒素(BUN)の方が重要視される傾向にあります。

ナトリウム
 細胞外液中の代表的な陽イオンです。塩分(NaCL)の主成分です。塩分を取りすぎると、水分をひきつけます。ナトリウム濃度として変わらなくても塩分の取りすぎは、水分をひきつけ細胞外液量を増加させることになりますので、高血圧につながります。
一方、透析後半に血圧低下を起こした場合、高張食塩水(濃いNaCl液)を注入することがあります。これは注入された高張食塩水が細胞外液量を増やし、血圧低下を防ぐ効果があるからです。
口渇中枢が正常であれば、たとえば濃い味付けなど、摂取した塩分が多い場合には、水分摂取が促され、ナトリウムの濃度自体には通常変化がありません。

カリウム
 透析者にとって、もっとも重要な電解質です。カリウムはナトリウムとは反対に細胞外には少なく、細胞内に大量に含まれています。細胞はいろいろな刺激を受けて興奮します。たとえば心筋細胞も刺激を受けて、興奮し収縮します。細胞は安静時には細胞内がマイナスの電位をもっていますが、細胞の興奮時には外からナトリウムが大量に流入して細胞内電位は急速に上昇します。その後、カリウムイオンが細胞外に出て行くことで電位は元に服します。この際、血液中(細胞外の)カリウム濃度が高いと、電位が元に服さず細胞の興奮が持続します。これが心臓にあっては不整脈や易興奮性につながり、場合によっては致命的な結果になるわけです。
 通常、一般的な食事摂取によって、一日100mEq程度のカリウムが経口摂取されます。一回の透析で除去できるカリウム量はおよそ100mEqといわれています。一日の便中排泄量を25mEq程度と考えますと、二日間でおよそ150mEqが体内に蓄積するわけで、ある程度の食事制限なくしては透析のみでのカリウムの除去は不可能ということになります。
 食品としては、周知のように生ものや野菜、果物などにカリウムは豊富に含まれています。また経験的には夏は発汗などがあり、カリウムは低値になることが多いようです。
カリウムを吸着して便中に排泄を促進する薬剤として、カリメートやアーガメートゼリーという薬がありますが、作用機序からしてカリウムを体外に排泄するには、便通が整っていることが必要です。便秘状態ではカリウムは排泄されません。ご注意下さい。 またインスリンは血糖値を下げるホルモンですが血糖を細胞内に取り込む働きがあります。そのとき同時にカリウムを細胞内に取り込む働きがあります。従って、インスリン作用不足の状態すなわち糖尿病では、血中カリウムが上昇する危険性があります。また、最近高血圧の治療薬として広く使われている、レニンアンギオテンシン系阻害薬の服用で血中カリウムが上昇する危険が指摘されています。糖尿病の方でこのような薬の処方を受けている方では、血中のカリウムの上昇に注意が必要です。

カルシウム
 透析患者における血清カルシウム濃度の判定に当たっては、血中のアルブミン濃度での補正が必要になります。
 補正Ca値=実測Ca値(mg/dl)+(4.0 - 実測アルブミン値)と補正します。

これは生体活動に直接影響を与えるのは、アルブミンとは結合していないフリーのカルシムであるからです。血清アルブミン値が低いときは、実測されたカルシウム値の中でもアルブミンと結合するカルシウムは少量です。アルブミンと結合していないフリーのカルシウム値が高値であるはずです。これをある程度正確に反映させるために、補正カルシウムという値を使います。すなわち、血清のアルブミン値が、つねに4.0mg/dlあるものと仮定するわけです。透析者の正常値も、健常人の正常値とほぼ同じで、8.5-10.4mg/dlが正常範囲とされています。

補正されたカルシウム値が、この正常値の範囲を越えて高値であった場合には、
透析者の場合は、@リンの吸着に用いられる、カルシウム含有のリン吸着剤の内服が多量である可能性。A腸管からのカルシウムの吸収を促進するビタミンDの内服量が多い可能性B自立的な増殖を始めた高度の副甲状腺機能亢進症。などの場合が考えられます。
このような血清カルシウムの高値が持続することは、血管や皮下組織などにカルシウムが沈着する異所性石灰化などを招く危険があります。 一方で、この正常値以下であった場合には、活性型ビタミンDの投与量が少ない場合、A副甲状腺腫を摘出した後などの状態が考えられます。 私たちは補正カルシウム値が10.0mg/dlを越えないように、注意しています。

リン
 およそ、リンが検査値の異常として脚光を浴びるのは、腎疾患以外には考えられません。 余談ですが、生体内ではリンの85%は骨にカルシウムと結合してリン酸カルシウムのかたちで存在するといわれています。骨はカルシウムのみならず、リンの最大の貯蔵庫であるというわけです。
ここでちょっと生物の活動というものを考えてみます。生物が重力に抗して、活動を行うには骨格というものが必要になります。骨格には外骨格とよばれるものと内骨格と呼ばれるものが存在します。外骨格の典型は貝類です。およそ貝類の活動が活発で敏捷であるとは思いがたく、敏捷に精緻に動き回るには細かな筋肉の発達が必要です。生物は進化の過程で活動性をまし、外骨格から内骨格へと進化を遂げたといえます。
貝類などに見られる外骨格の主成分は炭酸カルシウムです。一方、より活動性を増した哺乳類では骨格は内骨格となり、その主成分はリン酸カルシウムと変化します。リン酸は高等生物においてエネルギーの授受に極めて重要な役割を演じています。
こうして考えると、ヒトにかぎらず高等生物では、その活動を支える骨格のなかに、単に重力に抗するという役割だけでなく、リン(酸)というエネルギーの授受に必要な物質を貯蔵するという重大な役割を与えていると考えられます。

 一度の透析では、およそ800から1000mgのリンを除去することが限界です。週に3回の透析では、週にして3000mgのリンを除去することが限界です。 一般に日本の健常人の平均的なリンの摂取量は、一日1200mgと言われていますが、このうち800mgが尿中に排泄され、400mgが便中に排泄されます。摂取のリンのおよそ3分の2が吸収されることを考えると、透析による除去に見合うリンの摂取は、およそ一日800mg程度となります。リンはたんぱく質1gにつき、およそ15mg含まれていると言われています。これはおよそ60g弱のたんぱく質に相当します。
 このように透析のみでは、リンの除去が不充分であるために、リン吸着薬が多くの場合処方されます。消化管のなかでリンを吸着し、便の中に捨ててしまうのです。炭酸カルシウムはその代表です。炭酸カルシウムは胃のなかでリンと結合しますが、その際には胃の酸度が結合に影響します。すなわち胃酸の多い状態のほうが結合が強いので、食後時間がたって食物で胃酸が中和された状態よりも、食直後のほうがリンの吸着は効率が良いことは注意してください。
 保険適応医薬品ではありませんが、酢酸カルシウム、リンゴ酢カルシウムなどは、胃酸の影響を受けがたくリン吸着力に優れた薬品です。  リン吸着のためとはいえ、カルシウムの取りすぎは逆にカルシウムの沈着を招きます(異所性石灰化)。炭酸カルシウム製剤はその40%がカルシウムですが、カルシウムとして一日1500mg、炭酸カルシウムとして、一日4000mg(炭カル錠として一日8錠まで)に服用を制限する必要のあることが、2003年のアメリカ腎臓学会にて報告されています。  リンをめぐる問題は長期透析者の重要な問題です。

アルカリフォスファターゼ(ALP)
 アルカリフォスファターゼは、主として肝臓と骨に分布する酵素です。肝臓には他にも、GOT、GPT、γGTPなどの酵素が検査に利用されますが、このような検査に異常がなくて、ALPが高値をとる場合には骨由来と考えられます。ALPは骨の代謝回転が亢進していることを反映します。 腎臓病の場合には、活性型ビタミンDの欠乏や、低カルシウム血症のために骨回転が亢進し骨からのカルシウムの遊離が亢進するような状況では、ALPは高値になります。
逆に、亢進していたALPもビタミンDの投与やカルシウムの是正により、骨回転が正常化すればALPも低下します。


副甲状腺ホルモン(PTH)
 副甲状腺の異常は慢性腎不全特有の異常といえます。
慢性腎不全では、いくつかの要因で、血清のカルシウムが低値になります。
なかでも、腎臓によるビタミンDの活性化障害、腎臓からのリンの排泄低下などが重なって、腎不全では血中カルシウムが低値を示します。ということは、腎臓というのはカルシウムの豊富な海水環境から陸上というカルシウムの乏しい環境へ進出したヒトが、カルシウムを効率よく吸収するために進化適応した臓器といえるかもしれません。
この血中カルシウムの低下を修正するために、腎不全状態では副甲状腺から副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されます。PTHの刺激によって骨は代謝回転を高め、カルシウムが骨から血中に遊離し、低下した血清カルシウムを補うわけです。腎不全では各種のホルモンに対する骨の反応性が低下していることもあって、副甲状腺ホルモン値は健常人よりは少し高めの値に維持することが望ましいと言われています。
最初は、低カルシウムに反応して肥大していた副甲状腺も、長期化すると自律性をもって増殖し腫瘍の様相を呈します。活性型ビタミンDは、この副甲状腺ホルモン値を低下させる作用がありますが、多すぎる投与量は血中カルシウムやリンの値を上げる副作用があります。カルシウムやリン値ばかりが上昇して、副甲状腺ホルモンを抑制することができない状況も起こりえます。
このようなときには腫大した副甲状腺にアルコールを注入したり、手術的に副甲状腺を切除したりする必要があります。

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