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知識の整理箱 No.005
ボタン 痛風と高尿酸血症について  ボタン


【尿酸をめぐる話題】
 尿酸の高値を相談に来られる方も増えておられるような印象です。そこであらためて尿酸に関する話題をまとめてみました。尿酸値の高値は痛風(血症沈着性急性炎症性関節炎)の原因につながるとして有名ですが、最近は、その他にも心臓血管系への影響などが取り上げられています。
 高尿酸血症は尿酸代謝における遺伝的異常に、環境要因が重なっておこります。 食事、アルコール摂取などの影響を受けることから、近年生活習慣病としても重要視されています。

【尿酸代謝の基礎知識】
 尿酸の由来について、まとめてみたいと思います。
 すこし基礎的な話ですが、生物は遺伝子というもので種の保存を行っていることは周知のとおりです。その遺伝子を形作るのがDNAというものです。DNAは、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)という4種のヌクレオチドからなります。このうち、アデニン、グアニンはプリン塩基とよばれる構造を持ち、チミン、シトシンはピリミジン塩基とよばれる構造を持ちます。
 ここでいささか専門的にすぎる説明ですが、プリンまたはピリミジン塩基の特定の位置に糖鎖が付着したものをヌクレオシドと呼び、さらにこの糖鎖に高エネルギーをもつリン酸が結合したものをヌクレオチドと呼びます。いわゆるDNAというのは、上記の4つのプリン、ピリミジン塩基に糖鎖とリン酸が結合した4種類のヌクレオチドが、らせん階段のように結合したもので、すべての生物の遺伝情報はこの基本構造で成り立っています。

 さて尿酸は人におけるプリン代謝の最終産物です。
この意味を考えてみますと、生物は代謝を営みます。毎日、いろいろな臓器で多くの細胞が生まれ、また死滅します。たとえば赤血球の誕生を考えて見ますと、赤血球の寿命は120日といわれています。赤血球は骨髄の中で、有核の赤芽球として誕生し、途中成熟とともに脱核がおこり、赤血球として末梢血に現れます。そして120日の寿命を終えます。
細胞が死ぬときには、その核の中の遺伝情報はうまく処理されて壊されなければなりません。上述の赤血球であれば脱核時に核のもつ遺伝情報はうまく処理され、間違っても他の細胞に組み込まれたり、後世に残ってしまったりしてはいけません。間違った遺伝情報が残ってしまったら、生物のその後の運命が変わってしまう危険があります。そこで細胞が死ぬときには、DNAは分解され、ヌクレオチドからヌクレオシドへ、さらにそれぞれの塩基へと分解されます。一方で、これらのDNAの材料はあらたな細胞誕生のために、有効に利用されることは望ましいことです。ですからこれら分解された塩基は、再び細胞誕生のために再利用される経路(サルベージ回路)と、さらに代謝分解される経路に進みます。 プリン塩基の場合は代謝の最終段階として、尿酸にまで分解されるわけです。

図に示すように、アデニン、グアニンなどのプリン塩基をもつ核酸は、図に示すような代謝経路を通ります。尿酸の体内プールは、およそ1200mgで、体内においては一日に、およそ700mgが産生され、同量が排泄されると言われています。
したがって血中尿酸が高値になるのは、細胞の分解が亢進して、大量のプリン体が放出され、尿酸の産生が亢進したとき(例として、急性白血病などの治療のために、抗がん剤を投与した後などで、大量の白血病細胞が死滅したときなどが考えられます。)、あるいは尿酸の腎臓からの排泄が低下したとき、などが考えられます。
 尿酸排泄の主な経路は腎臓であり、およそ2/3が腎臓から排泄されるといわれています。 したがって、体内の尿酸プール(血中の尿酸濃度を)を決定する重要な因子が腎臓からの排泄量です。腎臓において、尿酸は複雑な動態をしめします。尿酸はまず糸球体でろ過され、その後尿細管で再吸収され、一方で尿細管で分泌され、再度尿細管で分泌後再吸収されるという、4段階の代謝の過程を経ることが知られています。

 高尿酸血症とは、血中の尿酸値が7.0mg/dlをこえたものをいいます。
弱酸である尿酸は、血液中ではイオン化して主として(98%)が尿酸ナトリウム塩のかたちで可溶化して、血液中に溶解しています。その溶解度はpH7.4、ナトリウム濃度130mEq/L、37℃の状態で7.0mg/dlといわれています。この値は正常血中尿酸濃度の上限にほぼ等しい濃度です。すなわち尿酸は正常血中濃度の上限が、溶解度(飽和度)に近接しています。 そのために体内局所の温度変化やpHのわずかの変化で、その溶解度が低下すると容易に尿酸塩結晶が析出します。尿酸塩は酸性環境で析出しやすい状態になります。すなわちpH6.0以上のアルカリ尿中では、過飽和でも比較的安定ですが、酸性に傾いた尿では過飽和状態になりやすく低濃度の尿酸でも析出しやすくなります。
 腎臓という臓器で考えて見ますと、腎臓の糸球体を濾過された尿酸は尿細管を通過しますが、尿細管とくに遠位尿細管や集合管といった部位では水の再吸収が行われ、尿は100倍以上に濃縮されます。またこの部位で酸の分泌が行われ尿の酸性化が行われるので、遠位尿細管以下の尿は酸性で尿の濃縮機序が重なり、もっとも尿酸の析出しやすい環境にあるといえます。

 血中尿酸値が上昇したときには、尿酸の尿中への排泄も増加します。この状態でさらに尿酸排泄薬を服用すると、高尿酸尿が助長され、前述のように尿細管内で尿酸の析出がおこり、尿細管障害から腎機能障害へと進展します。このように腎機能障害時には尿酸の排泄が低下して、血中尿酸は一層上昇します。上昇した尿酸は、それ自身が腎機能障害性に働きますので、やはり血中尿酸値を適当な値にコントロールすることが望ましいと考えられます。
 また、後述しますが、高尿酸尿であっても、尿酸の析出を抑えるために、充分な水分摂取につとめ、毎日の尿量を充分に確保すること。尿のアルカリ化に勤めて、尿が産生に傾いて尿酸の析出が起こらないように注意することなどが重要なポイントです。

【高尿酸血症の診断と治療】
 高尿酸血症は、生体内の尿酸プールが増大した状態です。したがってその原因は、尿酸の産生の増加か、排泄の低下が原因と考えられます。両者の鑑別は必ずしも容易ではありませんが、簡便には一日尿中への尿酸排泄量が600mgを超える場合には尿酸産生の増加が疑われます。その他、血中と尿中の尿酸とクレアチニンの濃度を比較して、産生増加型か排泄低下型かを鑑別することができます。

その上で、排泄低下型には尿酸排泄促進剤を、産生増加型には産生抑制薬を投与するのが治療の原則です。

【尿酸排泄促進薬か尿酸産生阻害薬か】
 一般には、尿酸排泄促進薬のほうが、血中尿酸の低下作用は強いといわれていますが、 腎臓機能障害時には尿酸排泄薬の効果は減弱します。また上記のように尿酸排泄薬のために高尿酸尿が助長され、腎機能障害がさらに悪化する危険性がありますので、腎機能障害時には一般的には、尿酸産生抑制薬が用いられます。
 ここで、注意すべきは、尿酸産生阻害薬として汎用されるアロプリノールには、その代謝物である、オキシプリノロールにも活性があるために、腎機能障害例では血中濃度が遷延し、薬物の副作用が出現しやすいということです。残存腎機能に応じて、薬剤を減量する必要があります。
 ここで高尿酸尿の定義ですが、いくつかの書物にもあまりはっきりした記載はありませんが、一日尿酸排泄量およそ600mg/dl以上を、高尿酸尿と定義するようです。

【尿酸排泄を低下させる薬剤とは】
 併用することで、尿酸の排泄を低下させる薬剤として、下記のものが有名です。
1) 利尿薬
 フロセミド、サイアザイドなど、多くの利尿薬に共通して見られることですが、利尿薬の服用により、尿酸の排泄は初期には増加、ついで低下することが知られています。
2) サリチル酸
 鎮痛解熱薬として知られるサリチル酸ですが、(解熱薬として有名なアスピリンは、 アセチルサリチル酸のことです。)、服用により尿酸の排泄低下がおこります。
3) ニコチン酸
  ニコチン酸も尿酸の排泄を低下させることが知られています。

【高尿酸血症と腎障害】
 尿酸降下剤や透析療法などが、開発される以前には、痛風患者の死因は腎不全が、17-25%も占めていました。また、腎機能が低下すると、高尿酸血症も助長されるために、高尿酸血症における腎臓の管理は重要です。
一般に、高尿酸血症が長期間持続すると、尿酸塩が尿細管および間質に沈着し、高尿酸性腎症とよばれる障害がおこります。

【酸性尿の是正】
 前述のように、酸性尿の状態では、尿中の尿酸・尿酸塩が析出しやすくなります。 これを避けるためには、尿をアルカリ化することが勧められます。 尿のアルカリ化として、勧められる食品は、野菜や海藻類が挙げられます。 腎機能障害時には、カリウム値の上昇につながる危険があるために注意が必要です。 酸性尿の改善には、重曹やクエン酸の投与が勧められます。ことに高血圧の合併があり、ナトリウム負荷を避けたい場合には、クエン酸製剤(商品名:ウラリットU)などが用いられます。クエン酸はシュウ酸カルシウム結石形成の抑制因子としても知られており有効です。目標とする尿のpHは6.0〜6.5程度が望ましいといわれています。

【尿量の確保】
 尿中に排泄された尿酸の溶媒である尿の量を増やすことは尿酸濃度を低下させることになるために、尿酸・尿酸塩の析出防止として腎障害を認める痛風・高尿酸血症例では重要です。 飲水により、一日尿量を2000ml以上を保つようにします。


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