Annual review
of nephrology 1997 p115-119.
Annual review of nephrology 1999 p212-217.
Textbook of Nephrology. 6thEd. Brenner.
State of art. 腎疾患 part 2.
多発性嚢胞腎は両側の腎に多数の嚢胞を形成し、また実質の萎縮と線維化を伴う疾患で、常染色体優生遺伝(autosomal
dominant polycystic kidney disease; ADPKD)と、常染色体劣性遺伝(autosomal recessive
; ARPKD)に大別される。90%は、ADPKDである。
ADPKDは罹患率が約1000-2000人に一人。推定受療者数;15000人(透析者5000人、非透析者数10000人);ハリソンでは、300-1000人に一人。透析患者全体の3-5%を占める。ハリソンでは、アメリカでは10%。どの年齢でも発症するが、30-40才台が最も多い。60歳までに患者の半数は末期腎不全に至る。しかし同一家系であっても腎不全に至る時間には差があり、高血圧、反復性の嚢胞感染、男性、診断時年齢が若い人では腎不全に至る時間が早い。
嚢胞は腎のネフロンの約1%で発生するにすぎない。残りの尿細管の萎縮と線維化の程度が腎不全の進展を規定する。 10-30%に尿路結石が生じる。高血圧は20-30%に認められる。嚢胞のために腎臓内の構造が変わり。腎臓内部の虚血が誘因になって、レニンアンギオテンシン系が活性化されていることが考えられる。
腎以外の嚢胞としては、肝に60-70%で、認め、女性、腎機能低下者に多い。膵、卵巣、甲状腺に多い。20%に頭蓋内動脈瘤を認め、8%の患者に頭蓋内出血を認める。頭蓋内動脈瘤の頻度は年齢とともに上昇するが、透析療法の有無には相関していない。ADPKD
の人すべてで脳動脈瘤を検索することは推奨できない。しかしクモ膜下出血の既往を持つ人では、MRAによる検索が望ましい。
僧帽弁逆流(多くは逸脱)を20%、大動脈弁逆流を10%に認める。心弁膜異常は高血圧などに付随するものではなく、遺伝性疾患の表現型として出現している。胆管拡張の合併も報告されており、また透析導入後には大腸憩室が顕著に出現する。これらの腎外症状はいずれも特定の遺伝子異常による細胞外マトリックスの変化によるものと考えられる。
嚢胞形成
1) 上皮の増殖
個々の細胞かもしくは尿細管の限られた部分に由来する。上皮という極性をもちながら、腎臓の細胞(renal cell)を増殖させるプロセスが嚢胞の表現型を規定する。
2) 細胞外マトリックス
細胞外マトリックスの異常がどのような嚢胞性疾患でも認められる。
腎炎にせよ糖尿病にせよ腎実質が破壊された場合、そのような線維化組織に埋もれた部分から嚢胞は発生する。このような知見は、間質の異常が嚢胞の発生に重要な役割を演じていることを伺わせる。動脈瘤や、腹壁ヘルニアや心臓弁膜の異常を伴いやすいという事実は、なにかしら嚢胞腎発生に細胞外マトリックスが重要な役割を演じていることを考えさせる。
3) 液の貯溜
嚢胞は糸球体ろ液を受けとめる部位に発生する。しかし嚢胞がある程度大きくなると、尿細管との連絡がなくなり、独立したふくろとなる。その後も嚢胞が大きくなるのは、嚢胞上皮から分泌される液性成分による。
ADPKDの80%は16番染色体上に遺伝子異常をもつ。
PKD1遺伝子;Cell 77;881-,1994. 第16番染色体の短腕、 cDNAは14.5kBと大きな遺伝子であり、遺伝子産物はPolycystinと呼ばれ、4304個のアミノ酸からなる。既知の蛋白とホモロジーを持たない。Polycystinは腎のほかに、精巣、肺、副腎、脳において強い発現をみる。PKD1蛋白は、成人腎の集合管上皮に出現、また腎嚢胞上皮にこの蛋白の発現が認められる。Polycystinは、細胞間、細胞-基質相互作用に関与し、嚢胞上皮細胞に強く発現する。また正常環境では発達段階に沿って調整されていて、免疫組織学的には胎生期に尿細管上皮細胞に発現するが、加齢とともに減少する。(成長途上の腎、肝臓にPKD1蛋白が一過性に局在しており、成長した腎では血管周囲や糸球体以外の部位に分布しており、PKD1蛋白は腎臓や肝臓の形態形成に関与していることが示唆されている。):The
PKD1gene produces a developmentally regulated protein in mesenchyme
and vasculature. Nat Med 1:359-,1995.
ADPKD患者でどのように嚢胞が発現するかについての仮説は、
1)PKD1 geneの不活性化によるpolycystin産生の低下、2)Mutated formのpolycystinのため、正常のpolycystinの活性化の低下、3)PKD1
geneのなかの不活性化しているmutation. そのためmutated PKD1 geneをもつ患者では発育している細胞は次の成長段階に進むことができず、幼弱な細胞の増殖が持続し、尿細管の拡張している表面に液が貯溜し、嚢胞が形成される。拡張した尿細管は正常の尿細管に比し、polycystinを多量に含む。嚢胞は尿細管から発生するため、嚢胞上皮細胞も尿細管細胞に由来するものと考えられる。尿細管細胞が高度に分化し極性をもつ細胞であり、増殖性が低いのに対して、嚢胞上皮細胞ではc-fos、
c-mycなどのprotooncogeneの発現がみられ、増殖能が高く、極性も失われ、尿細管細胞が脱分化した状態と考えられる。
ADPKDのうち15-20%の少数の患者家系についてはPKD1とは連鎖しない。
これらの患者はlate onset typeで、比較的高齢で発症するため終末期腎不全に到達する年齢もより高齢であり、予後が良好である。PKD2遺伝子;第4染色体短腕。4q12-23に存在することがpositional
cloningで確認されている。PKD2は5.4kbで成人の腎、卵巣、小腸、大腸で強く発現する。PKD2の蛋白である、polycystin2は Ca
チャンネルのsubunitと同じhomologyをもち、polycystin 1や自分自身から組成されるchannelとして機能する。またpolycystin
1と2は正常の尿細管発生には本質的な共通の信号伝達を介して機能する。
嚢胞は妊娠10週頃、尿細管から発生する。 最初は尿細管から発生することが、注意深い実験から明らかにされたが、嚢胞の直径が数ミリを越えるようになると、尿細管から離れて嚢胞が独立する。およそ3/4の嚢胞は年余にわたって、嚢胞内液の組成で見る限り、近位尿細管機能に似た組成の液を貯溜する。しかし、これら嚢胞上皮細胞が糸球体尿細管のどの部位の形態を残すかという問題については、異説が多い。
嚢胞上皮細胞は完全に分化成熟した尿細管上皮細胞の形態を示すのではなく、どちらかといえば未分化な形態を示す。 早期には尿細管壁内の細胞増殖が見られる。細胞増殖は嚢胞が拡大した後も持続し、ADPKD腎の上皮細胞の高いターンオーバーを反映している。嚢胞液貯溜がある嚢胞中には多数の細胞と細胞分解物が存在し、細胞増殖とアポトーシスの過程が関与することが示唆されている。また嚢胞上皮細胞はMCP-1、osteopontin,
monocyte chemotactic protein、type4 collagen、 cyst activating factorを分泌することが知られている。これらのautocrine、paracrine
factorが間質の変化、線維化に関与することが知られている。
若年発症の重篤な臨床型のADPKDでは、PKD1遺伝子全体の欠失が生じている。一方、遺伝子変異によりある程度機能の残された蛋白が産生される場合では成人発症型のonsetが遅いタイプとして、発症することが考えられる。
おそらくPKD1 、PKD2はそれぞれ、腎臓の発生に重要な役割を演じているのであろう。
おそらく尿細管上皮の発育が停止するのに、polycystinなどが必要になるのだろう。
この蛋白が正常に発現しない場合(遺伝的にgerm lineに異常をもつだけではなく、second hitを受けて蛋白の発現が変化すると考えられる。)、尿細管上皮は増殖を続け、嚢胞上皮として増殖を続け、分泌液が貯溜して、嚢胞は拡張していくのだろう。
嚢胞が発生するのは、わずかに全体の1%のネフロンにすぎない訳であるから、単純に嚢胞が大きくなって尿の流れをせき止めるから、腎不全が進行するというわけではない。嚢胞が大きくなって、周囲の実質を障害し(?)ていくことが、腎障害の原因と考えられる。
なかには嚢胞を抱えながら、腎障害が進まない人もいる。なにか緩衝する遺伝子、環境因子などが存在する可能性もある。 高血圧の影響。
なにがしかの薬剤を投与した場合、尿細管間質の炎症、線維化などに引き続いて、急性腎障害と嚢胞性変化が認められる。このような場合白血球の関与も指摘されており、たとえば遺伝的に嚢胞性疾患を引き起こしやすいラットなどを、ステロイドで飼育すると、腎のサイズが小さく、また腎機能も保たれることが知られている。最終的には間質の線維化と、細動脈硬化が腎不全例で顕著な所見となる。
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