できごと徒然
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No.0042

できごと徒然(42) −だいとうクリニック訪問記−

   ドイツ、ロマンテイック街道の紅葉も記憶に新しい、10月29日水曜日、またまた研修に出かけた。行き先は、姫路のだいとう循環器クリニックである。

 院長の大頭さんは、60歳を超えられた年齢であるが、その若々しさ、しなやかさは、すでにそれだけでただものではない。大頭さんのお名前はずいぶん昔から存じていた。大先輩であるが、私たちの内輪では互いをさん付けで呼ぶのが慣わしなので、僭越ながら親しみを込めてそう呼ばせて頂く。
 大頭さんは今年の夏に、神戸で開かれた、日本ホスピス在宅ケア研究会の代表をされている。面識は、この会が神戸で発足したときからなので、すでに10年以上になる。
 大頭さんは姫路でクリニックを営まれ、また、ヘルパーステーションや、グループホームなども手がけられ、包括的な医療を実践されている方であると存じ上げていた。 一度、クリニックへ伺ってみたいと思っていた。

 また、とくにヘルパーステーションの管理者をされている、田中洋三さんは大頭さんの懐刀(ふところがたな)として活躍されている。神戸大会でも実行委員長を勤められるなど、信望を集めておられる。田中さんは語れる方である。どちらかというと、医療職と比較して弱い立場になり勝ちなヘルパーという立場を語れる人である。もともと医師などの専門職の資格は持たれないが、逆にそれが中立の立場で、医師に対しても、ヘルパーに対しても同じような距離で、客観的に見られている視点が面白い。ときにすこし距離を置いた醒めた見方のできる方である。神戸大会を通じて、何度かお話をする機会があり、この人すごいと感じていた。

 すごい大頭さんに、すごい田中さんのコンビだった。大頭さんの見識と理念に触れたいと思い、一度はクリニックを尋ねてみたいと考えていた。それがこの29日に実現した。

 同行は、最近知り合った、ヘルパー志望の男性、上山さんである。上山さんのことはまたどこかで書く機会もあるだろう。朝、8時に三宮で待ち合わせて、姫路に向かう。9時過ぎに姫路駅に着くと、すぐに田中さんが迎えに来てくれた。

 車に乗せていただいて、早速、ある高齢独居老人の住まいを伺う。
このご老人は、近くに身寄りがなく、また身体的には目が見えず、膝も痛みがあり、ほとんど自宅のベッド上での生活である。年金暮らしである。お世辞にもあまりきれいとはいえない長屋での生活である。施設への入所がふさわしいのかもしれないが、田中さんいわく、目が不自由なので、すべてのことに介助がいる。コップを取ったり、何かを落としたら、すべて拾ってもらわなければならない。ことごとく人に頼らざるを得ないので、入所したらそこまでしてもらえるかどうか?気ままに身の回りのものの置き場がわかっている自宅で生活を続けたいという本人の希望もあり、在宅を続けているそうだ。
  田中さんは、この老婆のケアマネージャーをされている。 老婆は自分が自宅での生活を続けられるのは、この田中さんのおかげと感謝しており、田中さんのことを先生と呼んでいる。確かに、この高齢の手足が不自由で、目も見えぬ老婆にとって、かろうじて自宅での生活が可能なのは、毎日かかさず訪れてくれるヘルパーたちのおかげであり、それをアレンジしてくれる田中さんのことを、老婆が先生と呼んで感謝するのも、もっともな話である。
 少なくとも、医師よりも田中さんの役割のほうが、生活を支えるという意味では、大切な役を演じておられるような気がする。
 田中さんは、この方のすべてをよく知っている。挙句は、この方の貯金の残高まで知っている。そこまで信頼が厚いのだと気づく。

 田中さんとは、車中いろいろな話をした。
 印象に残っているのは、介護の世界にはそれなりのノウハウ、視点があり、医師や医療の価値観とはまた違った価値観があるということ。医師の価値観をそのまま持ち込んではいけないというか、通用しないということだった。
 糖尿病の人の介護の際に、まんじゅうを食べたいという話が出たら、どうするか?という話題もでた。純粋に医学的な立場では、これは否であろう。では、生活者を介護するという視点では、一概に否といえるのか? どう答えるのが適切なのだろうか?
 回答は複雑になる。

 在宅医療は、生活と密着している。病院であれば、あなたは病気だから、こうしなさい。で多くは片付く。しかし、生活と密着した在宅では、自然と本人の意思を尊重する方向に医療は向かざるを得ない。生活者の希望に、医療は歩み寄りを示さざるを得ない。
 では生活者の希望を、すべてかなえるのが「よい医療と呼べるか?」となると、答えは複雑である。
 少なくとも、これからひとつの大きな医療の流れになるであろう、「在宅」に向かうとき、医師、医療者には、また異なった視点、対応、会話の技法が求められるような気がする。
医療者はまたひとつ難しい問題を課せられたようだ。
 なかなか、文章にするのは難しい。今後の私の宿題である。

 田中さんの車にのって、いろいろな話をしながら、姫路郊外に作られたグループホーム「花みずき」を訪ねた。グループホームというのは、軽度痴呆の老人を対象にした施設である。ここは9人がワンユニットで、全部で3ユニット27人の入所である。
 このような少人数での模擬家庭的共同生活が、老人性痴呆の症状緩和によろしいということで、北欧を中心に始まり、日本でも少しずつ広まっている。
 「花みずき」は姫路の郊外に作られた、真新しい明るい施設である。中に入ってみると、ひろびろした空間で、老人たちが生活している。
 ちょうどお昼時であったが、食事の準備を手伝っている人もおれば、片付けをしている人も、談話している人もいた。入所とはいえ、それぞれ個別の生活を送られているようで、 束縛されたり、管理されたりという印象は薄い。文字どおり生活しているといった雰囲気だった。
 2階の明るいテラスで、責任者のやはり田中さんという女性から、お話を聞いた。 光が入ってきて、ゆったりしていて、思わず、このまま眠り込んでしまいそうなくつろいだ雰囲気だった。
 老人医療も変わったなと、しみじみ思った。
大学を卒業し、医師になりたてのころ、派遣されたバイト先の病院は、おおむね老人病院だった。ベッドが並べられ、病衣を着た老人たちが、横たわっていた。おしめをしたり、暴れたりする人は抑制帯というもので、ベッドに固定されていた。 もちろんこのグループホームと病院では、重症度がちがう。今も医療系の老人病院では、過去と同じような光景が見られることだろう、しかしこのような介護施設では、家庭に近い環境で療養する老人の姿がある。介護保険の良い一面といえるかも知れない。
 しかし、一見普通そうな老人と若い職員の会話を聞いていると、やはり老人は痴呆だった。この人は入所したら、かなり長期間この場所で過ごす。場合によっては、最後まで。

 そんなことを考えながら、フト、これってどことなく、私が関わっている「透析医療」に似ているなと思った。

 グループホームは9床、3ユニット、27人をお預かりする。この規模は、私のクリニックの透析患者の数に近い。一度お預かりすると、かなり長い間の患者さんとのお付き合いが始まる。
 その間には、山あり谷あり、いろいろな出来事がある。透析患者は透析がなければ生きていけない。患者さんにとっては、文字とおりの生活。それを見守って患者さんとともに歩んでいく。

 少し似ているなと、思う。違うのは透析は治療が終われば、患者さんはそれぞれに自宅に帰る。ここでは、24時間の生活を見守る。 この少し、似ているグループホームが、伝えるメッセージ。
「できるだけ自宅に近い環境で、、」
これは、私が透析施設を作るときに、考えたことと同じ。週に3回も受ける治療だから、できるだけ自宅に近い環境を提供し、寛いでもらいたいということ。
なんとなく、透析医療にもつながるメッセージを感じながら、グループホームを後にした。

 最後は、姫路駅前にある、「だいとう循環器クリニック」を訪れた。駅前の目抜き通りのビルの4階である。クリニックは、一面が通りに面してガラス張りになり、明るいクリニックである。
 ひと目で目に入ったのは、多くの展示物である。ちょうど、菊の花が品評会宜しく飾ってあった。そのほか写真、絵画、人形、、、、多くが患者さんの作品である。クリニックが患者さんに慕われていることが、如実に感じられる。
 そこで、午前診の終わった大頭先生と対面する。 先生は背が高く、姿勢がいいので、見ているだけで気持ちがいい。声も大きいし、テキパキ話をされる。さすがに元心臓外科医だけのことはある。 クリニックを簡単に案内してもらったが、エルゴメーターという自転車のような機械で、患者さんにこいでもらって運動負荷をかけ、心電図変化を見るような専門的な機械や、除細動器といった心臓病治療の専門的機械が置いてあったのには驚いた。ここで静脈麻酔をかけて、除細動を行うそうだ。
 しかし、このような専門的な心臓病治療から、がん末期のターミナル医療、さらにはグループホームのような老人医療、痴呆症の治療まで、本当に先生の間口の広さには驚かされる。
 今日、水曜日の午前の診療後は、このだいとう循環器クリニックのミーテイングだそうだ。週に1回行われているという。これに参加させてもらった。 なんとこの日は、私たち2人以外にも、訪問看護希望の看護師Nさん、関学の学生さんと都合4人も見学者がいて盛況だった。 ミーテイングは、クリニックの隣のホールで行われる。30人くらいは入れるスペースだ。

 まず製薬会社のMRさんから、最近出た薬の説明を聞く。この間にお弁当を頂いて腹ごしらえする。
 クリニックの隣には、調剤薬局があって、このミーテイングは調剤薬局さんとの共同ミーテイングのようだ。薬剤情報の交換や服薬指導など共同でミーテイングをするメリットは大きいことだろう。
 MRさんから薬の説明があり、薬局の方からも質問が出る。ひとしきり新薬の説明があった後で、いよいよクリニックのミーテイングの始まりである。ちなみに司会は2名の看護師のかたであった。
 最初に、大頭先生が、1週間の新患患者の紹介をされた。高血圧の方が多かったが、中には、明日から在宅訪問が始まるという患者さんの紹介もあった。
 ついで、入院の紹介ということで、看護婦さんが、クリニックに通院中の方で、入院されている方の近況、消息を披露された。聞くところによると、クリニックでは入院された場合も、看護師が病院に伺い、近況を把握しているとのことだった。これはとっても感心した。
 ついで、在宅医療をしている患者さんの報告が、訪問看護婦のほうからあった。現在39名の在宅とのこと。火曜日の午後が先生の往診日で、先週は夜の9時まで往診されたとのこと。 ついで、クリニック所属のケアマネージャーから、報告があり。
 ついで、グループホームの入所者の近況報告が看護婦からありました。グループホームへの看護婦の派遣は、訪問看護は算定できないので、この部分はサービスということになる。
 ついで、院内機関紙の担当の方から、来春に発行する機関紙の原稿の集まり具合などの報告。
 ついで、事務の方の発言。いろいろな患者会、健康教室の参集状況が紹介されました。 パソコン教室、手芸、俳句などなど、、思いつく限りの親睦会が催されているようです。 パソコン教室が人気で、もう来年の予定が枠が埋まったそうです。大頭先生によると、パソコンに堪能な人が教授するそうで、目的はホームページを作ることだそうです。がんの末期の人にパソコンを教えて、ホームページの作り方を教えてあげると、皆一生懸命に自分史づくりに、病気のつらさも忘れて取り組まれるそうです。
 ついで、この1週間の勉強会の参加状況の紹介がされました。大頭先生は講演会の司会をされたようでその報告。看護婦さんたちが糖尿病の勉強会に行かれたようで、その報告。 とても有意義な勉強会だったようで、その後のPTAの集まりに遅刻しそうだったとか楽しい感想が聞かれました。
 ついで受付の人たちが、勉強会に行かれたようでその報告。「病歴カードをつくりませんか?」といったタイトルで受け付けスタッフが講演されたそうです。そして最後に、事務の方が行った患者さんへのアンケートの集計結果が披露されました。なんと500通以上のアンケート結果です。受付への印象、院長先生への印象、看護婦さんへの印象など、細かなアンケートが行われ、分析されていました。

 このように、実に盛りだくさんに、ひとつのクリニックが多面的に関わっておられる事が分かりました。驚きでした。 これが60歳を過ぎられ、20年近く開業生活を続けられた、先生の今の仕事場です。
 20年近くたって、今なおアンケートをとって、よき医療の実践に向かって努力されているなんて、そして一人の医師の蒔いた種がこんなに広がりを持っているなんて、驚きました。この柔軟性、包括できる度量の広さ、まことに驚嘆します。
先生に、このように多方面に広く対応される、先生の仕事のキーワードは何ですか?とお尋ねしたところ、「【自分こそ主治医】を実現するために、、」というお言葉が返ってきました。

 開業4年目の私が、先生の年まで今の先生のような気持ちと姿勢でおれるかどうか? まったく自信はありませんが、先生のクリニックを拝見させていただいて、なんか気持ちが大きくなったようで、とても良かったと思っています。少しでも先生の足元に近づきたいと思い、帰宅して、私は早速真似ることにしました。
クリニック全体でのミーテイングです。医師、婦長以下、透析室看護婦、外来看護婦、事務、栄養士、今現在私のクリニックに在籍してくれているスタッフと、事例を交えて話し合ってみようと思い、とりあえず全体ミーテイングを計画しました。 気づいてみれば、どうしてもっと早く実行しなかったのかと思いますが、だいとう循環器クリニックを見学して、とりあえず早速に実施することにしました。

 もうひとつは、大頭さんは、このお年なのに、PDAを使っておられます。 いろいろ管理するのに、PDAが便利なのかも知れません。早速私もこれも真似をしたいと思い、今、使いやすいPDAを物色中です。
 
 大きな体で、大きな声で、テキパキと、でも時に妙に駄洒落がお好きで、、 しなやかで、おおきな先生の、益々の御活躍をお祈りします。
見学の機会を与えていただき、本当にありがとうございました。
今後とも宜しくご指導ください。
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