これから本の紹介もしていきます。読みやすくい良書を集めたいと思います。
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この本面白い(48) 「冬の鷹」
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鎖国の続く江戸時代中期に唯一門戸を開いていたオランダ(蘭)から輸入された、人体解剖書「ターヘル・アナトミア」を和訳した前野良沢、杉田玄白の人生を追った作品です。
訳書の「解体新書」は杉田玄白の訳によるものと思っていましたが、実は蘭語を和訳した中心人物は、前野良沢だったそうです。
和訳の中心は前野良沢、杉田玄白は和訳に協力した人々の輪を保ち、また出版や広報、宣伝を担った敏腕プロデユーサーだったそうです。
蘭語の翻訳そのものに専心し学究肌であった良沢は、出版を控えてもなお和訳は不完全なものとして、解体新書に訳者として名を残すことを拒否します。
それがゆえに、解体新書は杉田玄白の訳として後世に残ることになります。
それにしても初めて見る蘭語の医書を、辞書のない時代に一つずつ訳していく作業をいかに成し得たのか。
本の中では蘭仏辞書がありそこに蘭語で言葉の簡単な説明が付いていたようで、それを丹念に読み込んで一つずつ訳していったようですが、気の遠くなるような作業を成し得た先人の労にあらためて頭が下がります。
漢方医が主流であった当時に、蘭語のターヘル・アナトミアを、中津藩前野良沢と、奇しくも同時期にこの本を入手した小浜藩杉田玄白が、これら教科書とともに腑分けを見学した際に、その記述が正確なことから、この医学書を和訳することを決心します。それは西洋医学を習得し、より正確な医学医術を導入するという使命感に支えられた情熱だったと思います。
解体新書が発刊され、市井に受け入れられ、広まって行くとともに、二人の人生はくっきりと明暗が分かれます。
杉田玄白の名声は高まり、当代一の蘭方医として活躍し高く評価されます。
一方、学究肌の良沢は、子供や妻の死も重なり、世間との交流を断ち最後まで蘭学の翻訳に没頭します。
この本は、最後、良沢が文化14年4月17日、85歳で亡くなるまでを描きます。
ターヘル・アナトミア翻訳の裏側に、このような人間模様があったことなど、大変興味深く読み終えました。
そして、「あとがき」が良かった。
吉村 昭のあとがきには、丹念に資料を集めたこと、そして時に現地に赴き調査したこと。これにより、前野良沢が隠居した日まで明らかにすることができた。など、吉村 昭もまた情熱を持って、良沢はじめ登場人物を追尾しています。
記述が日付まで明確に記入されているので、どこまでが史実で、どこからが小説なのか区別が難しいほどです。
江戸という時代の空気までが感じられて、その中で情熱を持って活躍する良沢や玄白の姿が浮かぶようで、とても印象深い本だった。
読んで良かった。
2024年10月、霧島にて読了
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この本面白い(47) 「アルジャーノンに花束を」
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アルジャーノンに花束を
ダニエル・キイス 著
小尾 芙佐 訳
早川書房 980円
2015年3月15日 発行
2024年7月26日 60刷
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「読まないまま終わる人生もあったと思うと、怖いってぐらい凄かった。」と書かれたオビに惹かれて、この本を読み始めた。
この本を読んで、人間の想像力って、すごい!、と思いました。
ストーリーは、知恵遅れで生まれたチャーリーが脳の手術を受けて、すごいスピードで知能を回復し、数か国語を理解し文献も読む天才に変貌していく。
一方で、知恵遅れの時には、周囲に馬鹿にはされるものの、多くの友人に囲まれていた。
それが知識を得て天才になっていくと、皆は遠ざかっていく。
また優しく接してくれていたと思っていた裏には、あざけりがあったことにも気づいていく。
363ページ、「でもぼくは知ったんです。あんたがたがみのがしているものを。人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです。」
たぶん、これがこの本を通じて作者が伝えたいテーマだろう。
アルジャーノンは、チャーリーが受けた脳の手術を、チャーリーより先に受けた白ネズミの名前だ。
この登場人物の設定、そしてチャーリーが知能を獲得していくとともに感じる周囲との人間関係の摩擦、そのやりとりが微妙に表現される。
そのやりとりが繊細でくすぐられるような感じで、本に引き込まれていく。
日本語訳が上手なんだろうな、なんということのないやりとりなのでが、その表現のたくみさに吸い込まれていくような気がして、読み終えた。
急速な勢いで獲得した知識は、しかし同時に急速に失われていき、アルジャーノは死を迎えた。
そしてチャーリーも急速に知恵が落ち死を迎える。
最後にこんな言葉を残して。
「そんなにおこりんぼにならないよおに、そーすれば先生にわもっとたくさん友だちができるから。ひとにわらわせておけば友だちをつくるのはかんたんです。」
「どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそえてやてください。」
作者のダニエル・キイスは、知恵遅れの少年に手術をすることで、急速に知能を獲得することで、見えなかったものが見えるようになり、それがまた軋轢と悩みを生み出すことを描いた。そして愛情のない知性は真の幸せではないと伝えた。
しかしこれは人間への暗喩なのかもしれない。
子供の頃から成長し学習し大人になっていくのだが、年をとると知性は落ちていく。
それが人間であり、そのような人間に必要なのは愛情であると、作者は言いたかったのではなかろうか。
2024年9月23日
京都で、ブラックジャック展を観た日に読了。
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この本面白い(46) 「往診屋」
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雪の花
吉村 昭 著
昭和63年4月25日 発行
令和4年7月25日 24刷
新潮文庫 490円
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時は天保8年(1837年)、天然痘の流行の続く中で、種痘の普及に奔走した福井の町医 笠原良策が主人公だ。
天然痘は伝染力が非常に強く、当時、死に至る病として大変恐れられた。
この本の中でも、天然痘で亡くなった人が蓆に包まれて、大八車に乗せられて火葬場に搬送される光景が繰り返し描写されている。
種痘が普及するまでは天然痘は極めて致死率が高く、なす術もない人々には迷信と知りながらも、牛の糞を焼いたものを飲用するなどの治療が伝えられたという。
種痘法は、1796年にイギリスのジェンナーにより発見された。
当時、鎖国していた日本には、長崎やロシアからその知識が伝えられるも、種痘苗(今でいうと、牛痘の膿疱内分泌物で牛痘ウイルスを含んでいたのだろう。)を外国から輸入することは禁じられていた。
そのような時代に、種痘苗を輸入する許可を幕府に申請し、また種痘をすることで天然痘が予防できるという正しい知識を普及させることは大変な苦労であった。
当時の医術を担った漢方医の抵抗、役人の無理解や怠慢にのために陳情しても何年も回答をもらえぬなど、長い苦難が克明に記されている。
当時は培養法などが確立していないために、種痘を行った子供から7日目にその腫れた膿疱から、また膿を少量取り次の子供に接種して種痘苗を継いでゆく。そのような方法で種痘苗を守ってきていた。
種痘苗を絶やさぬように苦労された姿が記されている。
郷土の福井に種痘苗を持ち帰るたびに、種痘を接種した子供を連れて猛吹雪の峠を越えていく姿は、誠に命がけの決死行であった。
ちなみに「雪の花」という表題は、種痘接種を行った少女の雪のように白い肌に、種痘による発赤が花のように映ったという、p.96の記述から取ったものと思われる。そして雪には、福井に種痘苗を持ち帰るために雪深い峠を命懸け越えたという、良策の執念が象徴されているように思う。
読んでいて、コロナ感染症が思い出された。コロナも2019年から世界中で拡大し、多くの人命を奪った。
コロナワクチンが開発され普及して、現在、やや落ち着いてきている。
いつの時代にも感染症との戦いがあり、そして感染症撲滅に努力した医師がいた。
日本にも天然痘の撲滅に、命懸けで取り組んだ医師がいたことを、この本を読んで知りました。
吉村 昭さんは丹念に資料を読み込み、克明な描写で作品を作られます。
その緻密な描写に惹きつけられます。
2024年9月14日 箱根への旅の途中で、読了
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この本面白い(45) 「往診屋」
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往診屋
〜地域の患者の人生を診る365日〜
渡部 豪 著
2024年3月18日
幻冬舎 1600円
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徳島県の吉野川市で、在宅医療を実践されている、渡部 豪 先生の執筆された本です。
とてもスッキリした本だなあ。というのが第一印象です。
文章もすっきりしているし、本の筋立てもすっきりしています。
それは経歴でも触れられていますが、徳島大学医学部を卒業して医師になった後、厚生労働省に入省され官僚として勤務され、いろいろな資料を作成された経験も下地になっているのではないかと思います。
その後、行政的な仕事よりも実地臨牀がしたいということで、臨床経験を積まれた後に吉野川市で在宅医療を専門とする、よしのがわ往診診療所を立ち上げられました。
先生の実践で、特徴的なのは、「往診」に力点を置いておられる点だと思います。
多くの在宅医療を担う診療所は、「訪問診療」という計画的な在宅医療を行っています。渡部 豪先生は急な要請にも応える「往診」を重要として実践されているのが印象的でした。
渡部 豪先生の在宅医療の実践を中心に自らのあゆみを記述された本ですが、医療制度のことや、急変時に備えるAdvance Care Planning のこと、死亡診断書のことなど、在宅医療に重要なことが書かれているよくまとまった本だと思いました。
164ページ;「私の頭の中では、地域社会と自分の関係を考える計算機が常に動いている。ここで今いちばん社会がうまく回る方法は何か。救急車で運ぶことか、それとも自分が往診して処置することか。搬送や処置に係る時間、患者の負担、搬送車の帰宅手段や容体が変化する可能性などあらゆることを計算する。自分を社会の中の一つの道具として見た場合、自分が往診して処置をするのが最適解という結論になれば動く。(中略) 地域の基幹病院や協力してくれる連携病院、一緒に働いてくれる訪問看護ステーションとの協働を意識して、地域の往診医として何をするのが最適なのかを考えて動いている。」
厚生労働省で勤務され医療を俯瞰的な立場で考える視点と、目の前の患者を診察する現場の視点が重なって大切なコメントを発信されています。
現在の在宅医療の立ち位置を考えるにも良い本だと思いました。
巻末に、渡部 豪 先生は、今後の高齢社会への対応として、訪問看護や訪問介護を要介護認定者だけではなくて、誰でもが利用できるような柔軟なシステムができないだろうかと提案されています。
今までの経緯から日本ではこのような柔軟なシステムへの変更は難しいだろう。
でもこのようなシステムはどこかで見聞したことがあるなと思い起こせば、デンマークではこのような運用をしていたなと思い当たった。
各地域ごとに看護介護のセンターがあり、その担当の地域をチームを組んでカバーする。時間帯も分けて、そして時間帯によって柔軟にチームを組み替えて、文字どおり24時間その地域をカバーする。
退院にあたっては、その人の生活を熟知する地域の看護師が病院に迎えにいくという逆転の発想。
そのシステムの柔軟性と合理性に、昔、随分感心したことが思い出されました。
でもこれは原則、医療介護が社会保障として公費で運営されているからできること。日本のように営利団体が担えばおのずと対象を区切り、契約を必要とするようなことになるのだろう。
日本でも、例えば地域のCOOPの配達センターに、訪問介護や訪問看護が引っ付くようなサービスは生まれないだろうか?!
もう少しアソビというか、伸びしろのあるシステムにならないだろうか?!
この本を読み終えて、いろいろ思い、妄想?は駆け巡る。
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この本面白い(44) 「50+30パーキンソン病の謎」
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50+30パーキンソン病の謎
岡田芳子、舟波真美 著
アルタ出版 2024年4月20日
1500円
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SNSでフォローさせて頂いている、岐阜大学脳神経内科 下畑亨良 先生が紹介されていたので読ませて頂きました。
パーキンソン病に罹患されたお二人の患者様の体験談です。
パーキンソン病歴50年の岡田芳子さんは、皮膚科の医師でもあります。
医学部の卒業試験の際に、答案用紙を書く指が動かなかったのが症状のはじまりだったそうです。それから50年、3人の子供さんを育て上げて、皮膚科医としても仕事を続けられたそうです。
パーキンソン病の体験を患者でありまた医師の視点から、細かな薬の服用の際の注意、工夫などを記載されています。薬の効いているオンの時と薬の効かなくなるオフの時、一日の中でなんども訪れる体調の変化を詳細に記載されています。
あらためてパーキンソン病というのはこういう病気だったのだと気づかされました。
仕事、闘病の一方で、APPLE ( Active Parkinson's Patients' Library on E-net ) というような患者団体を立ち上げて、同病の患者の支援をおこなったりと活動されます。
純粋に、立派な人だなあと思います。
もうお一人の、舟波真美さんは、パーキンソン歴30年。
現在は、病気が進行して、DBS(深部脳電極刺激法)の治療を受けられたり、嚥下障害が進行して胃瘻を装着されたりと病気は進行していますが、音楽大学を卒業された経験から、やはり同病の患者様と音楽を通じた交流をされたり、卓球を楽しむ会を企画されたりと、この方も明るく前向きに人生に向かっておられます。
読みやすい本ですが、この本を通じて、あらためてパーキンソン病という病気がどういう病気なのかということ、またその病気を抱えながらも前向きに生活される患者様の姿を見て大変感心しました。
パーキンソン病を患う患者様、医療者の方に、読んで頂きたい本だと思いました。
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この本面白い(43) 「世界がキューバ医療を手本にするわけ」
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世界がキューバ医療を手本にするわけ
吉田太郎 著
2008年 築地書館 2,000円
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冒頭、一般的に世界各国を見まわした場合、国民一人当たり所得と乳児死亡率は逆相関する。すなわち所得が高いほど、乳児死亡率は低くなる傾向がある。
ただ唯一、キューバだけがこの法則に背き、低い国民所得ながら米国を上回る低い乳児死亡率を達成している。
少ない社会保障費で高い医療水準を維持していることから、世界中がこのキューバの医療システムに注目している。
風刺家のマイケルムーアもアメリカの高額な医療制度を批判して、キューバの医療制度を評価している。
アメリカの消費的な資本主義に反旗を翻し独自の社会主義を目指すも、ソビエト連邦の解体に伴い強烈な物資不足に見舞われる。印刷する紙まで不足する事態の中で、アメリカの経済封鎖のためにウインドウズやマックなどのパソコンも入手できない中で、フリーのリナックスOSを用いて医療ネットワークを立ち上げて行く。
アメリカの高額な医薬品も入手できないことから、独自にワクチンを製作し、しかもそれを必要とする国に配布する。
パキスタン地震など大災害にあった国に無料で医療援護団を派遣する。その活躍ぶりと、現地での称賛の様子なども紹介されている。
そして白眉は、ラテンアメリカ医科大学という巨大な医学教育施設を立ち上げ、2005年時点で、27か国から10661の留学生に医学教育を無料で提供しているとのこと。
スケールの大きさと、日本の仏教でいうところの「利他の精神」を実現していることに、驚いた。
世界の中には、こんな国もあるのだと驚く。
振り返れば、わが日本はアメリカの傘の下で高額な医薬品を輸入し(買わされ?)、豊富な医療資源に囲まれているように思う、しかし実際のところアメリカへの依存を深める一方で、なにも自給できていない。
あらためてキューバの医療制度なども参考にして、今後の高齢社会に自立自給で対応できる医療制度を考える必要があるだろう。
今まであまり知ることの無かったキューバという国に大変関心を持った本と出会った。
2024年、ゴールデンウイークに読了。
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この本面白い(42) 「生き物たちの眠りの国へ」
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生き物たちの眠りの国へ
森 由民 著、関口 雄祐 監修
2023年12月30日
緑書房 発行
2,200円
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一見、こども向けの動物の本かと思いきや、実はかなり専門的な医学的な情報も含まれたかなり学術的な本だった。
タイトル通りに、いろいろな動物の「睡眠」について詳しく記述した本である。
著者の、森 由民さんは動物園ライターと紹介されているが、理学部生物学科を卒業された方である。
たくさんの動物の、それぞれの睡眠について記載されている。
この本を読んでたくさんの驚きがあったが、中でも体長わずかに1mmの線虫(C.エレガンス)も睡眠するらしいという話には驚いた。C.エレガンスを構成するのはわずかに959個の細胞であり、そのうち302個が神経細胞であることがわかっているそうだ。神経細胞といっても脳という構造は持たない生物である。もちろん脳波など撮れるはずもない。それでも睡眠を摂っているのではないかと考えられている。C.エレガンスは卵からかえった後、4回の脱皮を経験して成虫になるそうだが、その脱皮の直前になるとからだの動きが止まり、休止期という時期を迎えるそうだ。これがC.エレガンスの睡眠ではないかと考えられているそうだ。このC.エレガンスの休止期をコントロールする遺伝子も特定されていて、それは他の多くの動物の概日リズムをつくり睡眠をコントロールする遺伝子に対応するものだそうだ。脳を持たないわずか1mmの線虫も眠っている。という話には大いに驚いた。
そのほかにも、鳥類はマイクロスリープや半球睡眠といったユニークな睡眠の摂り方をする。鳥類の睡眠時間は数分単位だそうだが、オオグンカンドリは上昇気流に乗って2分から12分間くらい羽ばたきもせず上昇するがその間に睡眠を摂っているという。またシロハラアマツバメのように7ヶ月間も飛び続ける渡り鳥は、半球睡眠といって脳の半球ずつ睡眠を摂って飛び続けるという。
鳥類などに比べると、ヒトの睡眠時間はかなり長くまとまった時間を睡眠に充てているといえる。高度な脳神経系をもつヒトは鳥のようなマイクロスリープではなくて、まとまった睡眠を撮ることで脳の回復を得ているのだろう。
あらためて睡眠というものが命あるものにとっては欠かすことのできない生命現象であることが良く分かった。
そのほかにも、脳波睡眠と行動睡眠の話。睡眠と冬眠の話など。
生物種を超えて、睡眠の不思議さ大切さを考えさせてくれる一冊だった。
身近な動物の睡眠をめぐるエピソードの数々。ときおり挿入される映画や音楽の話。
そして詳細な脚注などストーリーの展開もおもしろい。
とても読みごたえのある1冊だった。
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この本面白い(41) 「サピエンス全史、上下巻」
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サピエンス全史、上下巻
ユヴァル・ノラ・ハラリ 著
柴田 裕之 訳
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2023年大晦日の日に、なんとか上下巻を読み終えた。
上下巻で、700ページを超える大作です。
ヒト属には、私たちホモ・サピエンス種という生物種以外に、かつてはネアンデルタール人やデニソワ人など複数の種類が存在した。しかし現在では、ヒト属ヒト種は我らホモ・サピエンス1種となり、この1種が70億人にも増えて隆盛を極めている。
なぜ、ホモ・サピエンスのみが繁殖することになったのか?
ハラリの説明の一つで興味深かったのは、ホモ・サピエンスは「噂話」をすることができたという説だ。つまり、本来社会的な動物であるホモ・サピエンスにとって、噂話、虚構の話を共有することは、人間関係を築くのに有用であったということだ。
この噂話をする能力が、ホモ・サピエンスの集団をまとめるのに有用だったという。
目前に迫ったライオンの危機を伝えるだけではなく、敵が攻めてくるかもしれないという予想で城を築き、神への崇拝から神殿を築くような共同作業を可能にしたということだ。興味深い。
次いで、狩猟採取の生活から農耕の開始、書記体系の発明、貨幣の発明、産業革命、資本主義の発展などなど。
7万年前、アフリカの片隅にいたホモ・サピエンスが、想像力をもとに社会活動を展開し、現在、ヒト属の頂点に立つまでに至った過程を、刺激的な比喩を交えて俯瞰している。同時にその発展の過程で犠牲にしてきた他の多くの生物種のこと。地球環境の変化にも警鐘を鳴らしている。
スケールの大きさに、また日本語訳が秀逸なために、ワクワクするような興奮を持って読み終えた。
折しも生成AIが話題となり、新たな知性が生まれようとする現在、ヒトの未来はどうなるのか? 現在は特異点なのだろうか?
「私たちは何になりたいのか?」、「私たちはなにを望みたいのか?」
続いて、ハラリの次作である、「ホモ・デウス」も読んでみたいと思う。
2023年末に読み終えてよかったと思う。
世界的ベストセラーとして売れているだけあって、知的興奮の一冊だった。
文庫本の下巻の巻末に、訳者の柴田裕之さんがあとがきを書いておられるが、要点が端的にまとまっています。
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この本面白い(40) 「原野から見た山」
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原野から見た山
坂本直行 著
定価 990円
山と渓谷社 2021年復刻
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著者は、明治39年に北海道の釧路に生まれた生粋の道産子である。
祖父は、坂本龍馬の甥にあたるという。
北海道帝国大学 農学実科に進み、同時に北大山岳部に所属する。
一時東京の会社に就職するも、24歳の時に北海道十勝の牧場に勤めるようになる。十勝の原野と日高の山々に魅せられ、農業を営みつつ登山に暮れるとともに山行をエッセイとスケッチで綴る。
この本は瑞々しい文体と素朴なイラストが印象的な本です。
この本を教えてくださったのは、K先生です。
私の恩師を振り返った時に、真っ先に思い出されるのは、このK先生です。
K先生の導きで関西労災病院に就職することができて、多くの臨床経験といくつかの専門医資格を取得することが出来ました。私に臨床医の基盤を与えて頂いたのは、K先生のおかげです。
K先生とは労災病院を退職して20年あまり経った今でも、時折お会いする機会があります。先日お会いした際に、山が好きなK先生からこの本を紹介して頂きました。
昭和の初期の頃の山行を描いた、素朴な本です。
味わい深い文章と素朴なイラストで当時の山行の様子を描いています。
その描写から当時の山行の様子が生き生きと目に浮かびます。
人間は文章を読むことで、未だ訪れたことのない見たことのない土地の風景や山行の様子を想像することが出来ます。
豊かな自然のなかで山と戯れる様子が鮮やかに目に浮かびます。
素朴な描写ながら、自然と触れ合う豊かな世界が眼前に広がるようで。古今を問わず人間にとって自然との触れ合いがいかに大切で豊かなものであるかということを感じることが出来て、とても楽しい気分を味わうことが出来ました。
素朴な豊かな本でした。
ところでこの本を読み終えたのは、令和5年5月14日(日)。
新緑を愛でようと、鞍馬から貴船にハイキングに出かけた帰りに、出町柳の柳月堂という名曲喫茶に立ち寄りました。
音楽を聴くことに集中し、静謐を至上とする喫茶店です。
服を脱ぐのも店の前で脱いで入らなければなりません。
そんな今時あり得ない昭和な喫茶店で読み終えました。
2023年5月14日 読了
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この本面白い(39) 「健康寿命をのばす食べ物の科学」
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健康寿命をのばす食べ物の科学
佐藤 隆一郎 著
ちくま書房 860円
2023年4月10日
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面白かった!
文字通り、健康で長生きするためには、どのような食べ物を摂るのが良いのか?その根拠を科学的に説いた本です。
前半は、母乳に含まれる乳糖と乳糖分解酵素の話も面白かった。母乳は赤ん坊にとって唯一の栄養源であるが、離乳期を迎え母乳が主要な栄養源で無くなる頃にはこの乳糖分解酵素の活性が低下する。とくにアジア系、アフリカ系の人種では90%以上の成人が乳糖分解酵素の活性を失い、乳糖不耐症になりミルクを飲むとお腹がゴロゴロして下痢をするようになるという。一方、北ヨーロッパの人種では、冬には農作が困難なために牛や羊を連れての牧畜が重要な栄養源であるために、この乳糖分解酵素の活性が成人になっても保たれるという。この差は、乳糖分解酵素の遺伝子配列の一つの塩基のちがいで起こるという。
1991年、チロル地方の氷河で5300年前に遭難しミイラとなったアイスマンが発見されたが、このアイスマンは乳糖不耐症の遺伝子型だったそうだ。
7500年前に肥沃な中央ヨーロッパで起こった変異は、北ヨーロッパに北上するにつれて2000年経った時点では、まだチロル地方の人々の遺伝子を塗り替えるほどには進行していなかったということらしい。
ついでコレステロールについて詳細に解説されている。
著者の佐藤先生は、このコレステロールのLDL受容体の研究で留学されていたとのことで、かなり詳しく解説してくださっている。
2015年以前には、日本人のコレステロール摂取量に上限が決められていたが、その後この上限の記載は無くなった。これは上限以内に摂取量を抑えても、悪玉コレステロールの低下につながらないということが明らかになってきたからだ。コレステロールは、細胞膜の合成をはじめ、ステロイドホルモン、性ホルモン、骨の形成に必要なビタミンDの合成などを通して、生命の維持に必須な物質である。
生体はコレステロールを合成することができるが、多くは血中のコレステロールをLDL受容体を介して細胞内に取り込むことで、その需要を賄っている。
LDL受容体を介したLDLの取り込みに影響を与える物質などが紹介されている。とくに植物には、植物ステロールというコレステロールに類似した物質が存在する。植物ステロールはコレステロールの吸収を抑制するので、コレステロールの豊富な畜肉などを摂取する際には、植物繊維の豊富な野菜などの摂取が望ましいといえる。
なかでも、大豆の重要性を強調されておられた。
タンパク価の高さ、食物繊維に富み腸内細菌にとっても有用であること、イソフラボンなど女性ホルモン類似の活性を持つことなど大豆の栄養価の高さを強調されていた。
著者の佐藤先生も毎日納豆1パックを食べる習慣とのことだが、実は、私も個人的に大豆をはじめとするマメ類には注目していて、毎日朝食には大豆を摂るようにしている。この本を読んで益々大豆の重要性に意を強くしました。
この本の要旨が最後にまとめられているので、それを転記します。
1)豆類50g(納豆1パック)、玄米茶椀1杯、手のひら半分のナッツを摂取し、畜肉の消費を抑えましょう。
2)小さめのサツマイモ1本ほど余分に摂ることで食物繊維を増やしましょう。動物性脂肪を減らし、ヨーグルトを1カップ摂りましょう。
腸内細菌の多様性を維持するために、食物繊維を積極的に摂りましょう。
乳酸菌、ビフィズス菌などのプロバイオテイクスを含むヨーグルト製品を100〜200g積極的に摂りましょう。
3)色のついた野菜(さらに70g)や果物(さらに100g)を摂る習慣をつけましょう。同時にコーヒーは5杯程度、緑茶を習慣的に摂りましょう。
老化を抑制するセノリテイクスをして見出されたケルセチン(玉ねぎ)、フィセチン(イチゴなど)、レスベラトロール(ブドウの皮)などのポリフェノールは緑黄色野菜に多く含まれていることから積極的な摂取が望ましい。
4)高齢期からは、筋量維持のために乳清タンパク質、分枝鎖アミノ酸等を含む機能性食品、サプリメントを利用し、運動を食べましょう。
筋肉量の維持には、必須アミノ酸である分枝鎖アミノ酸であるロイシンなどが有用なことが知られています。
必須アミノ酸は体内で合成できないので、サプリメントなどで補充することが望ましい。
5)ウオーキングは2000歩ごとに死亡リスクを下げます。一日一万歩までは歩数が多いほど、癌死亡、心臓血管死亡、全死亡のリスクが低下します。
1分間に80歩程度の歩行速度でウオーキングを取り入れることが有用です。
などなど健康寿命を延伸する食品の利用について、さまざまな化学的知見が紹介されています。
とても面白く大変勉強になりました。
ご一読をお勧めいたします。
2023年、ゴールデンウイークに読了。
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この本面白い(38) 「がんになった緩和ケア医が語る「残り2年」の生き方、考え方」
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がんになった緩和ケア医が語る 「残り2年」の生き方、考え方
関本 剛 著
2020年9月2日 出版
宝島社 1200円
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著者の関本 剛先生は、私にとって六甲学院の後輩であり、そして20歳も若い方です。
母上の関本 雅子先生を存じ上げていたご縁で、剛先生を知ることになりました。
実はこの本が出版された時に、内輪での出版記念会が開催され、その席で彼にサインをしてもらいました。今回は文庫版になったこの本を、馬淵英一郎先生が、「この本読みましたか?」と貸してくれました。
そんなわけで、今回文庫本になったこの本をあらためて読み返していますが、やっぱりとても素晴らしい本だとお勧めできます。
剛先生は母上の後を追って、神戸の否、日本の在宅ホスピスの若きリーダーとして、今後の益々の活躍が嘱望される人でした。
何度か彼と話をしたことがありますが、本当にこんな非の打ちどころのない人が存在するのかと思うくらい、すべてに行き届いた人でした。
その彼が43歳の若さでこの世を去るなんて、なぜ?と何度も反問するくらいにその死は衝撃的でした。
その彼の、病気を告げられてからの葛藤。
がんを告げられながらも、医師として使命感をもって患者の診療に取り組む姿勢。
残された家族への言葉。
死生観と哲学。
人生に大切なことが、丁寧に書き綴られています。
最終章は、六甲学院の後輩への講演で締めくくられています。
彼を知るがゆえにこの本を読みながら、まるで彼が語りかけてくれるような気持になりました。
文章も構成も上手で、とても読みやすく引き込まれるように読みました。
もし同じように病名を告げられた時に、私は彼のように振る舞うことができるだろうか?
否、20歳も若い彼に自分は遠く及ばないだろう。
2022年4月19日、彼は永眠された。
2022年8月15日、彼を偲ぶ会が、母校の六甲学院の講堂で行われました。
卒業して以来、ほぼ50年ぶりくらいに母校を訪れました。
夏休みの日曜日に、ひとりの卒業生のために、講堂が解放されるというのは前代未聞のことであったようです。
兵庫県のみならず、大阪からも奈良からも、関西一円で緩和医療に関係する人たちがたくさん集まっていました。高校の同窓生、大学の同窓生、多くの人が集まっていました。
いかに彼が多くの人に愛され、そして影響を与えたか、彼の存在の大きさをあらためて知ることとなりました。
その席上で公開された、彼のビデオメッセージ。
自ら自分の葬式の際に参列者に伝えたいということで、事前にお別れの言葉をビデオメッセージにして録画されていました。
自分の死を見つめたその真摯なメッセージに圧倒されました。
今もyoutube で観ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=eBkwtoJwsCw
この本は、癌と告げられて道に迷いそうになったときに、きっと勇気づけてくれるように思います。
緩和医療の教科書にも相応しいと思いました。
関本 剛先生は、最後にとても良い仕事を遺したなと思います。
御一読をお薦め致します。
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この本面白い(37) 「動物たちのナビゲーションの謎を解く」〜なぜ迷わずに道を見つけられるのか〜
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「動物たちのナビゲーションの謎を解く」 〜なぜ迷わずに道を見つけられるのか〜
デイビッドバリー 著
熊谷 玲美 訳
発行 インターシフト
発売 合同出版
2400円
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今、クリニックの軒下に、ツバメが巣を作っている。
もう何年も初夏になると、ツバメがやってきてくれる。
冬の間は暖かい南のフィリピン、マレーシア、インドネシアなどで過ごし、夏になると日本にやってきて、巣作りをして子供を産む。
巣立ったツバメは来年も同じ巣に戻ってくると言われているが、実際のところは、ある報告ではその確率は4割程度だそうだ。
それにしても、ツバメは南の島からおよそ5000キロもの大旅行をして戻ってくる。
どうして5000キロの行程を迷わずに戻ってくるのか?誰しもが思う疑問だろう。
ツバメに限らず、サケも川で産卵後、海をめぐってまた生まれた川に戻ってくるという。ウミガメも、クジラも大陸を渡って数千キロを移動するチョウやガも。
動物たちはなんら目印のない海の上や深海を、なにを頼りに飛行するのだろうか?
あらためて不思議な動物の生態です。
それをひとつづつ説明してくれているのがこの本です。
その結果、動物たちは、太陽、星(北極星や天の川までも利用して。)、ヒトには見えない偏光、磁場や磁極のズレ(偏角というそう。)、臭い、音、超音波などなど。
あらゆる感覚を利用して、方向を決めているそうです。その驚くべき能力が紹介されています。
このような位置のナビゲーションには、海馬が重要な役割を演じていることから、動物のナビゲーションの研究は、認知症の研究にも繋がる。などの広がりが紹介されています。
近年、GPSなどがスマホで利用できるようになり、ヒトは数万年もかけて蓄えてきた位置覚、ナビゲーション能力を利用する機会を自ら放棄してしまっている。
あらためて動物たちの素晴らしい能力に注目することで、自らに備わっている、自分の人生を辿る時間と空間のナビゲーション能力を忘れないようにするべきだろう。
動物たちの不思議な能力に気づかされるとともに、自然は不思議に満ちていること。
動物は、自然のなかで、この地球環境を自由に航海している。
人間だけが国境なるものを引き、愚かな戦争を繰り広げている。
あらためて動物たちの能力に注目し、この地球に住むのは、人間だけではないことを強く自覚するべきであろう。
地球という環境、自然界の不思議、生物の尊さなどを考えさせてくれた読み応えのある一冊でした。
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この本面白い(36) 若い読者のための「第3のチンパンジー」〜人間という動物の進化と未来〜
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若い読者のための 「第3のチンパンジー」 〜人間という動物の進化と未来〜
ジャレド・ダイアモンド 著
レベッカ・ステフォフ 編著
秋山 勝 訳
草思社文庫 850円
2018年1月31日 第6冊発行
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ヒトに最もちかい動物はチンパンジーで、その遺伝子の配列の差はわずかに1.6%だという。もし誰かが地球の外から我々を眺めた場合、彼らからすればヒトは第3のチンパンジーとも言えるだろう。そこまで遺伝子的には近縁であるにも関わらず、ヒトとチンパンジーには歴然たる差がある。
なぜそのような差が生じるのか?ヒトをヒトたらしめているのは何なのか?ということを進化という視点から述べた本が本書です。
まずは何といっても、言葉である。チンパンジーの喉に比べて、ヒトの喉はより多くの言葉が話せるように進化しているという。こうしてヒトは複雑な言葉を話すことで、より複雑な行動が可能になった。また言葉から物事を想像することや将来を予想することなど、より高次で知的な行動が可能となった。
さらに農業などを営み、食糧を確保することができた。それまで狩猟民で食糧を探していた生活から、農耕し食糧を生産する技術を取得した。また石器にはじまり様々な道具を工夫してきたこともヒトの特徴だ。
そのほかにも他の動物に比して、ヒトの特徴が挙げられている。
面白かったのは、たとえばヒトの性行動についての記載も面白かった。ほとんどの動物が種の保存を目的にセックスをする。しかしヒトは必ずしもそうではない。またヒトは子育てに極めて長い時間を必要とする点、また閉経を終えたあとも長い人生を送ることも、他の動物には見られない特徴だという。
ジェノサイドの記載も興味深かった。異民族が接触したとき、ヒトは異民族を排除する行動を執るここが多いという。南米に侵略したスペイン、オーストラリア先住民のアボリジニと接触した白人などの例を挙げて、異民族が出会った時に平和的に共存する道を模索するよりも、異民族を排除するように行動するのがヒトの特徴らしい。
ヒト以外の動物種であっても互いに喧嘩をすることはある。しかしヒトはその頭脳でさまざまな武器を作り出した結果、素手で同僚を殴るにとどまらず、手の届かない場所にいる同僚にも攻撃する。さらに現代では、爆薬や核を用いて、一度に大量のヒトを殺戮することができる。もはやヒトの攻撃には歯止めがかからないのだ。
ヒトというのはそういう生物なのだ。
あらためて、「人間とはなんなのだ?」という問いに、主として進化生物学の立場からさまざまな考察を加えたのがこの本である。
現代のヒトであるホモサピエンスが出現したのが、およそ6万年前だそうだ。
以後のヒトの人口の爆発的な増加に比例して、ヒトに駆逐され絶滅していった生物種の数が増えていく。
失われた文明、荒廃した遺跡、絶滅した生物種など、過去の歴史を振り返れば、現在、爆発的に人口を増やし、環境を破壊し、他の生物種を食い漁るヒトの将来はその存亡が危惧される状況である。
ヒトの特性をよく知って、科学的な対策を立てることのみがヒトの将来を保証するのだろう。
しかしながら、現在進行中の、ウクライナへの侵略戦争などを見ると、人類の将来は非常に厳しいのではないかと思われる。
非常に読み応えのある、警世の書でした。
本のタイトルに、「若い読者のために。」とあるように、将来を担う若い人にこそ、是非読んで頂きたい本だと思いました。
私もこの本を読んで、すっかり著者のジャレド・ダイアモンドさんのファンになってしまいました。
他の著書も、読んでみたいです。
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この本面白い(35) 「mRNAワクチンの衝撃」
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mRNAワクチンの衝撃
ジョーミラー、エズレム・テユレジ、ウール・シャヒン 著
柴田さとみ、山田 文、山田 美明 訳
早川書房 2300円
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今、世界中を震撼させている新型コロナウイルスのワクチン誕生の実話です。
このワクチンを開発した、ウール・シャヒンとエズレム・テユレジという二人の研究者夫婦と、ファイナンシャルタイムズ社の記者ジョー・ミラーの合作です。
ウールとエズレムはトルコからの移民でともにドイツの大学で医学を学んだそうです。元々二人はがんの免疫療法の研究者で、mRNAを用いたがんの免疫療法を研究していたそうです。
すでに10数年前にビオンテック社を設立し、mRNAを用いたがん免疫の研究をおこなっていたとのことで、mRNAをめぐる研究の基礎地は充分なものがあったようです。
2020年1月24日、ウールはインターネットで、中国で謎の肺炎が起こっていることを知ります。
そしてこの肺炎がパンデミックとして世界に広がることを予見し、自らの持つmRNAを利用した治療をこのウイルスへのワクチン療法に応用することを決心します。
そこからこの本を通じて一貫して感じられるのは、とにかくスピードです。
自らのワクチン開発プロジェクトを、ウルトラライトスピードと名付け、ワクチンの開発に夫婦は邁進します。
ワクチンの対象となる抗原の決定、不安定なmRNAを体内で運ぶ脂質ナノ粒子はカナダの会社から調達、 大量のワクチンを製造するための工場の買収、数百億円規模の資金の調達、世界中に届ける販売網にはアメリカの製薬大手ファイザー社とのイーブンな協定、政治的な介入への対応などなどすべてが目まぐるしいスピードで進み解決されていきます。
そしてなんと開発に着手してからわずか11か月で、ヒトへの治験も終えて、広く世界中に臨床応用されることとなります。
このmRNAを利用したワクチンについては、世界初の試みということで、いまだワクチンへの反対の意見も残ります。
しかしもしこのタイミングでこのワクチンが開発されていなければ、この新型コロナウイルスによる被害はさらに甚大であったことは間違いないでしょう。
幾多の困難を乗り越えて、よくぞ開発できたものだと思う。
ペニシリンの発見に勝るとも劣らない、奇跡の薬の開発の記録と思います。
400ページにおよぶ大作であり、随分と読み終えるに時間がかかりましたが、滑らかな翻訳でスピード感あふれる展開に引き込まれるような読後感で読み終えました。
2021年世界を震撼させた新型コロナウイルスへの画期的な逆転の歴史として、このビオンテックファイザー社製のワクチンの開発は歴史に名を留めるでしょう。
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この本面白い(34) 「〜猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見〜」
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〜猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見〜
東京大学医学系研究科
疾患生命工学センター 分子病態医科学教授 宮崎 徹 著
2021年8月12日 初版
2021年8月22日 第2版
時事通信社 1800円
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不勉強で知らなかった。ネコは高齢になると高率に腎不全を発症して亡くなるそうだ。 その原因は長い間不明であったが、著者の宮崎 徹先生によりその原因が、「AIM (Apoptosis Inhibitor of Macrophage)」にあることが突き止められた。
この本では、この「AIM」発見までの軌跡を分かりやすく述べておられる。
Tリンパ球に関する免疫の研究から、「AIM (Apoptosis Inhibitor of Macrophage)」と名付けられたタンパク質を発見された。このAIMはカラダの中に貯まったゴミ(不要物)を除去するマクロファージ(貪食細胞)を長生きさせる働きがあることが分かった。
臨床的には腎臓への血流が急速に遮断された際などに、急性腎障害が起こるが、その病理は腎臓の尿細管上皮細胞が脱落しゴミ(デブリ)となって尿細管を閉塞することで腎不全になってしまう。このAIMを投与すると、このゴミ(デブリ)が速やかに除去されて腎機能が回復するのだそうだ。
そしてネコ科の動物(ライオン、チータ、トラ、ヒョウなど)では、このAIMが特殊なカタチで存在するために、このゴミ掃除機能が働かないことも突き止められた。これがネコ科の動物が高齢になると多くが腎臓病で亡くなる原因だそうだ。
宮崎先生は、これら腎不全に陥ったネコにAIMを投与し、その回復を確認されている。保存期腎不全の頃から、AIMを投与すればネコは腎不全の進行を遅らせて延命が可能となる。
このような病気の捉え方は、私ごときが言うのもおこがましいが、あまり従来は発想のなかった考え方だと思う。
従来は病気の発症は原因から考えられるのが主流だったと思う。例えば、AIMの対象に考えられているアルツハイマー病なども、アミロイド蛋白の蓄積を防ぐために、ワクチンなど発生原因を抑える戦略が考えられた。宮崎先生は、溜まったアミロイド蛋白をAIMでゴミ掃除をしようというアプローチだ。とても興味深い。
現在、AIMタンパクを大量生産する会社も立ち上げておられ、その開発に力を注いでおられる。
ネコの次はもちろんヒトである。長い間画期的な薬剤の開発なく腎臓病を治療する有効な薬剤は少ない。一日も早い腎臓病治療薬の開発が待たれる。
AIMタンパク質の薬剤としての可能性とその発見の道すじを分かりやすく解説して頂き、とても興味を持ちました。
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この本面白い(33) 「新型コロナとワクチン〜知らないと不都合な真実〜」
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新型コロナとワクチン〜 知らないと不都合な真実〜
峰 宗太郎、山中 浩之 著
2020年12月 日経BP社 850円
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著者の、峰宗太郎先生は薬剤師であって医師(病理医)であり、現在は、米国立研究機関博士研究員として活躍されているウイルス学、免疫学の研究者です。
SNSなどで、新型コロナウイルスに関する情報を積極的に発信されています。
https://covid-19.babubabulog.com/
また最近は、若い研究者とともに、「こびナビ」という新型コロナウイルに関する分かりやすい情報発信をおこなっておられます。
http://covnavi.jp/?fbclid=IwAR3BL4NafS2kQTp9qcI1P6XXWmZ9fY46RBxQvXTcStPuTsNeuDhjk9i3YU0
その峰宗太郎先生と、日経BP出版社の山中浩之さんが対談された内容がこの本です。
この本を読んだ印象は、極めてオーソドックスな内容だと思いました。
印象に残っている言葉は、「前のめり」、「検査前確率」、「情報を自分の頭で考えろ。」というような言葉でした。
今月中にも日本で接種が始まる、新型コロナウイルスワクチンについても、 公表されたワクチンの成績から、その効果に期待する一方で、ヒトに応用される初めての遺伝子ワクチンであること、ワクチンにより期待通りに予防効果が得られるか、それがいつまで続くか、長期的な安全性、など未解決な問題を指摘され、現在の「やや前のめりな」空気感に警鐘を鳴らしておられます。
また、感染を減らすには、PCR検査数を増やすことが必要だとする一部の意見には、「検査前確率」の重要性を指摘され、検査前確率の低い集団にPCR検査を行うことの無意味さを述べられ、日本が対策として採った「三密を避ける。」とか、クラスターを特定して濃厚接触者という検査前確率の高い人にPCR検査を行ってきた戦略は正しかった。と評されています。
今後、ワクチンが普及したとしても、「三密を避ける。」など、政府が指導する対応を各自が自覚して行うことが必要と述べられています。
There is no royal way. 「感染防御に王道なし。」これが私のこの本を読んだ読後感でした。
誰もが知っていることではありますが、その当たり前を分かりやすく整然と論じることができることもやはり希有の能力だと思いました。新型コロナウイルスとワクチンのことについて、現在、分かっていることを整理するには、とても良い本だと思います。
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この本面白い(32) 「アルツハイマー征服〜救済の日は来るか?〜」
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アルツハイマー征服 〜救済の日は来るか?〜
下山 進 著
2021年1月
角川書店 1800円
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アルツハイマー病の創薬をめぐるノンフィクションです。
大変な力作です。
この本の始まりは、青森に住むある家族性アルツハイマー病の家系の紹介から始まります。
そして日本のエーザイによる、アリセプト開発の実際など、リアルな取材の実際がいきいきと臨場感たっぷりに描かれています。
丁寧な取材から、開発者の人間模様までが描かれます。
アルツハイマー原因遺伝子の発見
ついで、トランスジェニックマウス捏造の話
アミロイドワクチンの開発の話
そしてワクチン開発の挫折から、抗体療法へ
ちょうど、2021年1月24日の新聞に、エーザイのBAN2401という薬剤の臨床試験が日本でも始まるという記事が載りましたが、このBAN2401のことにも、この本の252ページに触れておられます。
新薬開発というのは、途方もない努力が必要になるのだとつくづく感じました。
アルツハイマー病克服に向けての研究者、製薬企業の挑戦が続きます。
この中に登場する人物に、作者の下山進さんは実際に面会もしてインタビューもされています。
それは15年前に遡ります。
下山さんは、このアルツハイマー病の薬剤開発をテーマにしたノンフィクションを15年前から構想されてこられたようです。
しっかりした取材に基づいて、時間をかけて構想を練られたようで、ストーリーの展開もスムーズに、そして印象的です。
なかでも研究者自らがアルツハイマー病を発症する話や、家族性アルツハイマー病の国際会議で自らの経験を話する日本人女性の話など、ノンフィクションの迫力がありました。
あとがきにあるように、「いつの日か、この病気の苦しみが過去のものになることを願って。」
研究者と製薬会社の挑戦をつぶさにまとめたこの本は、とても読み応えのあるものでした。
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この本面白い(31) 「感染症の世界史」
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感染症の世界史
石 弘之 著
角川ソフィア文庫
2018年1月
1080円
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本との出会いも偶然の産物だと思う。
コロナ禍で自粛の続く中、ある日、本屋でこの本が目に留まった。
面白そうなので読みだしたら、本当に面白かった!
著者の、石 弘之さんは環境学者だ。朝日新聞に勤務の後、国連環境計画に携わったりもされている。
本のオビにあるように、40億年の地球環境史から人類と感染症の闘いを俯瞰した著作である。
マラリア、コレラ、ペスト、ピロリ菌、ヘルペスウイルス、インフルエンザ、エイズ、はしか、風疹、HTLV-1、結核などなど、人類は実に多くの感染症と闘い続けてきたのだと、あらためて気づかされた。
ことに14世紀にヨーロッパを襲ったペストは、当時の人口の3〜4割に相当する2500万人から3000万人が死亡したという。また20世紀初頭に大流行した、スペインかぜは、当時の世界人口18億人の半数から3分の1が感染し、世界人口の3%から5%およそ5000万人から8000万人が死亡したと言われる。
この本は、2014年に上梓された本である。現在、世界を震撼させている新型コロナウイルスはまだ現れていない。
新型コロナウイルスは、2020年12月20日現在、ジョンズホプキンス大学の報告によると、世界中で7600万人が感染し、170万人が死亡したという。新型コロナウイルスは今、世界中を大混乱に陥れている。
私が生まれてからこの方、これほどの感染症の大流行の報告は無かった。
しかしこの本を読むと、人類はこのような大規模感染症との戦いを、今までにも幾度となく経験してきたのだと知らされる。そして世界人口の高齢化、野生動物の成育環境への人間の進出などから、今後もこのような感染症が勃発するリスクが増加することであろうと警鐘を鳴らしている。
人類と感染症の長い戦いを知ることのできる力作と思いました。
それぞれの病気で亡くなった著名人の名前とか、HTLV-1感染症の遺伝子型の分布から日本人の起源論にも話題は及ぶ。なんと博学なと驚くばかりです。
あらためて人類と感染症の長い歴史を知るうえで、大変面白い本でした。
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この本面白い(30) 「新型コロナウイルス 脅威を制する正しい知識」
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新型コロナウイルス 脅威を制する正しい知識
水谷 哲也 著
東京化学同人 社
2020年5月19日
1200円
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京都大学iPS研究所の山中伸弥教授が自ら発信されている、新型コロナウイルスに関するホームページの中で紹介されていた本です。
https://www.covid19-yamanaka.com/cont2/main.html
長年、コロナウイルスの研究を続けて来られた、東京農工大学農学部付属国際家畜感染症防疫研究教育センター長の水谷哲也先生が、コロナウイルスの全景から、新型コロナウイルスについて解説された本です。
武漢市で最初の感染者が報告されたのは、2019年12月8日とのことですが、新型コロナウイルスの全ゲノム配列が決定されたのは、2020年1月7日だそうです。
その結果、この新型コロナウイルスは、ウイルス学的には、ニドウイルス目、コロナウイルス科、コロナウイルス亜科、ベータコロナウイルス属に分類されるとのこと。
SARSウイルスやMERSウイルスと同じベータコロナウイルス属に属するそうです。
コロナウイルスは、ヒト以外にもさまざまな動物に感染症を起こすことの紹介から、コロナウイルスの複製の仕組みについても詳しく紹介されています。
コロナウイルスはゲノムは30KBほどもあり、RNAウイルスの中では群を抜いて大きく、その分変異も起こしやすいのだそうです。こんなことまでわかっているのかとちょっとびっくりしました。
そして、この新型コロナウイルスの誕生については、武漢市に生息するコウモリの中でコロナウイルスが変異や組み替えを起こし、その中で野生動物に感染したコロナウイルスからヒトに感染が及んだとするシナリオを考えておられ、このような新興ウイルス感染症を制するポイントは、感染源となる動物(ネズミやコウモリはそのリスクが高いとのこと)との距離を置くことが必要と述べておられます。
ついでワクチンのこと、治療薬のことについても、触れておられます。
そのなかでは、クロロキンが新型コロナウイルスのレセプターになるACE-2に対して糖鎖の付加を阻害することによりウイルスが結合できなくする、またウイルスが細胞内に取り込まれたエンドソームのpHを下げないようにすることでウイルスの細胞内放出を阻害することで、感染を抑えるのだそうで、なんでマラリヤの薬のクロロキンが新型コロナウイルスの治療に使われるのか、やっと理由が分かりました。
早く新型コロナウイルスのワクチンはじめ治療法が出来るのを祈るとともに、コロナウイルスの特性から早晩あらたなコロナウイルス感染症が勃発することも充分予想されます。
水谷先生が指摘されるように、これで終わりではなく、新たな感染症に対する備えが必要だと思いました。
コロナウイルスを専門とされるウイルス学者による、新型コロナウイルスの解説です。
コロナウイルスに関するさまざまな報道に疲れた頭にも、大変興味深く読ませて頂きました。
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この本面白い(29) 「ぼくはやっと認知症のことがわかった」
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ぼくはやっと認知症のことがわかった
長谷川和夫、猪熊律子 著
KADOKAWA 出版
2019年12月27日
1300円
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この本の著者は、長谷川和夫さんです。
現在、日常の臨床現場で認知症の診断にもっとも汎用されている長谷川式認知症スクリーニング検査を考案した、あの長谷川和夫先生です。
その長谷川和夫さんが、認知症になったということを告白されました。
認知症であると診断されて、「ボクはやっと認知症のことがわかった。」と自らの体験を綴っておられます。
認知症の本質は、「いままでの暮らしができなくなること。」として、認知症になったからといって、今までの人格や生活や人生が切り離されるものではない。そこには変わらぬ連続性があると書かれています。最も重要なのは、周囲が、認知症の人をそのままの状態で受け入れてくれることです。とも書かれています。
また、認知症と診断された当事者の経験として、一日の中でも症状に変化のあること、認知症は固定されたものではないという実感。朝方は頭がすっきりして平常に近い仕事ができても、午後になるとだんだん負荷がかかってきて記憶が定かではなくなるという体験なども告白されています。認知症を自覚する人の立場で、どのような関りが望ましいのかを説明してくださいます。この本を読めば認知症の人への必要な対応が分かるような気がします。
認知症という言葉を新しく作ったのも長谷川先生です。それまでの痴呆という侮蔑的な表現から、認知症という言葉を作られました。そのようなエピソードも披露されています。
そして、最後には、自伝的回顧から、高齢社会の進む日本社会への遺言まで。
「認知症界のレジェンド」の言葉が書かれています。
大きな文字で書かれていてたいへん読みやすく、分かりやすいです。
当院では、認知症の相談を受けた場合には、まずこの本を紹介するようにしています。
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この本面白い(28) 「ブラックジャックの解釈学〜内科医の視点〜」
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ブラックジャックの解釈学 〜内科医の視点〜
国松淳和 著
金芳堂 出版
2020年4月20日
2400円
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ブラックジャックと言えば、手塚治虫の代表作である医学漫画です。
無免許医ながらすご腕の外科医で、黒いマントを着て現れ、どんな難病の人も治してしまうというストーリーです。
医師であるならば、誰しも一度は目にして、ブラックジャックの活躍に胸を熱くしたものです。
手塚治虫先生は、宝塚市のご出身ですから、私も小さいころは少年雑誌の発売日が待ち遠しくて、よく読みました。
今回、この手塚治虫の遺した、ブラックジャックの漫画を題材に、内科医の国松淳和先生が、真っ向から取り組みます。
ブラックジャックが活躍したのは、1970年代の頃。
手塚治虫が漫画の題材に取り上げた病気は、現代であれば、このような病気だったのではないかという臨牀推論を繰り広げます。そのようなことが可能なのは、実は、手塚治虫の描写が極めて精確であったからとはいうものの、国松先生は良くここまで推論を進めるなと感心する限りです。
そして病気への解説だけでなく、漫画のなかでのストーリーの展開、描写についても滋味深い解釈を加えていかれます。
国松淳和先生のブラックジャックへの、そして手塚治虫先生への、深い愛情を感じてしまいました。
手塚治虫先生がお亡くなりになったのは1989年ですが、没して30年を経て、このような解釈学が出版されたことに、きっと大変喜んでおられると思います。
ブラックジャックの解釈本と銘打っておられますが、豊富な鑑別診断や文献的考察などは、医学書としても大変面白いです!
星5つ!お勧めです!
p.s.
ブラックジャックであったら、この新型コロナウイルスのパンデミックに、どのように対応しただろうと、ふと思いました。
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この本面白い(27) 「長寿時代の医療・ケア 〜エンドオブライフの論理と倫理〜」
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長寿時代の医療・ケア 〜エンドオブライフの論理と倫理〜
会田 薫子 著
ちくま新書
2019年7月10日 900円
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2020年の正月に読んだ本で、印象に残る本でした。
会田 薫子さんは、いうまでもなく東京大学の臨牀倫理の先生で、前任の清水哲郎先生とながくこの分野で研究を続けておられます。
この本の書き出しは、ある高齢の慢性の呼吸器疾患を持った患者さんの描写から始まります。
不治の慢性肺疾患にて衰弱が進行し自力で食事摂取ができなくなったがために、経鼻経管栄養をされていましたが、本人はその経鼻チューブをいやがり自己抜去をしてしまいます。
病院では経鼻栄養を続けるために自己抜去を防ぐためにミトンを着けて抑制します。その父親の姿に疑問をもった息子さんの葛藤を描くことから、この本の記述は始まります。
高齢社会が進行し、上述のように、衰弱のために自力で経口摂取が出来なくなる高齢者は今後も益々増加することでしょう。
「自分で食べれなくなったとき、どうするか」という問題は日々の臨牀の現場で繰り返される難問です。
私の印象に残った言葉として、清水哲郎先生が言われる。
「生命の二重の見方」という考え方、すなわち私たちの生命は、「生物学的生命」と「物語られるいのち」が重なりながら形成される。という指摘にはなるほどと納得できます。
ですから自分の意思の表現が困難な人であっても、たとえば家族のようにその人のものがたりを共有するような関係性の濃い人との会話を通じて、その人の意思を理解できると述べておられます。
また、患者の意思決定支援の関りとして、パターナリズムから事前指示(アドバンスデイレクテイブ)への変化。そしてアドバンスデイレクテイブの不備からACP(アドバンスケアプランニング)への進化など、患者の意思決定支援のあり方が変わってきた経緯などを、多くのガイドラインや研究成果を交えて記述されています。
この本を読んで、私は、アドバンスデイレクテイブとアドバンスケアプランニングの違いが少し分かったような気がしました。
終末期を迎えた高齢者への医療とケアを考えるにあたり、医学的に適切な判断を基礎として、そのうえで臨牀倫理的に論理的かつ倫理的に適切な対応の在り方として、「本人にとっての最善」を考えることを中心に置くことが大切であると述べておられます。そして本人にとって最善とは医学的には決められるものではないと述べておられます。
臨牀倫理という哲学の先生であり、実際の臨牀の現場とは少し距離があるのかもしれませんが、臨牀倫理の立場から分かりやすく丁寧に解説されていました。
新書というかたちではありますが、豊富な文献も引用されており、充実した一冊と思います。高齢者の医療とケアに関わるすべての人に読んで頂きたい良書だと思いました。
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この本面白い(26) 「ベートーヴェン、ブラームス、モーツアルト その音楽と病」
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ベートーヴェン、ブラームス、モーツアルト その音楽と病
総合病院内科医がその病歴から解き明かす
小林修三 著
2015年5月
医薬ジャーナル社 2600円
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ベートヴェンは、1827年3月26日、午後5時45分に亡くなった。
遺体は直ちに解剖され、現在もウイーン大学に保存されているという。
そしてなんと、1994年にベートーヴェンの遺髪があのサザビーズにてオークションにかけられ、アメリカ人医師が入手したという。その遺髪を分析したところ、ベートーヴェンの遺髪からは高濃度の鉛が検出されたという。
同じく側頭骨も解剖され、聴覚神経の萎縮が確認され、難聴で悩んでいたことを裏付けた。
難聴の原因はこの鉛中毒が原因かもしれない。ベートーヴェンはワインが好きで、鉛製の食器でワインを愛飲したことが原因ではと推測されている。
一方、解剖の結果、ベートーヴェンの死因は肝硬変だそうだ。腹水が溜まり、5回の腹水穿刺を受けたことも記録されている。ただ鉛中毒と肝硬変については一般的には関係はなく、肝硬変の原因については不明だそうだ。
ブラームスも肝臓病で亡くなったそうだ。
ベートーヴェンが亡くなった6年後、1833年に生まれた。
シューマンに見いだされ、その後シューマンの入水自殺を経て、シューマンの妻クララシューマンを生涯慕ったという。
死の前年までブラームスは、とても元気だったという。
しかし急激に進行した横断、腹水により、1897年4月3日、午前8時30分に亡くなった。
ここで、著者は、ブラームスとビルロートの交流について触れている。
ビルロートは今でも外科手術にその名を遺す大教授だが、ブラームスと同じ時代に活躍された先生と知りました。
モーツアルトは、1791年12月5日、午前0時55分に亡くなった。
サリエリによる毒殺説が有名だが、確証のあるものではない。
モーツアルトの父、レポルドは大変まめに手紙を残していたという。
その手紙に、「息子の咽喉がやられて、熱を出したあと痛いという。診ると足のすねに、やや盛り上がった銅貨ほどの発疹がいくつかできていた。」と記載があるそうだ。この記載から筆者は、モーツアルトは溶連菌感染症にかかっていたのではないかと推測する。溶連菌感染症からの慢性腎不全、心不全がモーツアルトの死因ではないかと推測しておられる。
そして心不全による起座呼吸を起こしながら、ベッドの上で上半身を起こして絶筆「レクイエム」を作曲したという。
著者の、小林修三先生は、現在、湘南鎌倉総合病院の副院長を務められる、内科専門医であり、腎臓病、透析治療の専門家である。学会などでは教育講演も多数行われている。
私も、ご高名は充分に存じていましたが、こんなに音楽に造詣が深いとは存じ上げませんでした。
本著では、3大作曲家の病気と死因にまつわる考察を、内科専門医らしく鑑別診断をあげて推論されている。
この医学的推論を読むだけでも充分面白いが、これら医学的な側面にからんで、大作曲家が残した数々の名曲を紹介しておられる。音楽の感想を言葉で表現するのはとても難しいことと思いますが、紹介された音楽は、どれもすべて聴いてみたいと思わざるにはおれません。
この本を案内役に、大作曲家の人生に思いを寄せて、あらためて名曲を味わってみたいと思います。
(令和1年10月22日、天皇陛下 即位礼正殿の儀の日に読了)
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この本面白い(25) 「巨大ブラックホールの謎〜宇宙最大の「時空の穴」に迫る〜」
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巨大ブラックホールの謎 〜宇宙最大の「時空の穴」に迫る〜
本間 希樹 著
ブルーバックス 講談社 1,000円
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2019年もいくつかの驚くようなニュースがありました。
中でも、2019年4月10日に世界同時発表された、「ブラックホールの姿を捉えた!」という報道には大変興奮しました。
ブラックホールという理論上の存在と思っていたものが、実際に存在し、可視化されたというニュースには大変驚きました。
観測の感度を上げるために、地球上に点在する電波望遠鏡をネットワークで繋ぎ、膨大な観測データを持ち寄り解析するという国際プロジェクトEHT(Event Horizon Telescope)。その日本チームのリーダーが、この本の著者の本間希樹さんです。
とても分かりやすい記述で、天体観測の歴史から比喩を交えた表現で記述されています。
例えば、観測されやすい巨大ブラックホールの例として、いて座Aスターという天体を例にあげると、いて座Aスターまでの距離は2万5000光年。月の上に置いた1円玉を探すような倍率が必要になるそうです。
分かりやすく記述された本で、とても天体観測に親近感を覚えたのですが、おしむらくはこの本が脱稿されたのは、2017年4月であり、本のオビに書かれている、「これが、人類が初めて目にしたブラックホールの姿です。」という歴史的な報道がされる直前に脱稿された本だということです。
オビに魅かれてこの本を手にしましたが、内容はブラックホールの撮影に成功する前夜で終わっています。ちょっと残念でした。
でもこの人類にとって歴史的な成功に、日本チームが大きく関わっていることを知り大変感動しました。
また、不可能を可能にする人間の探求心のすごさにもあらためて大変感動しました。
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この本面白い(24) NHK きょうの健康
「腎臓病のごちそう術」
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NHK きょうの健康
「腎臓病のごちそう術」
低たんぱく&減塩なのにおいしい!
〜栄養計算いらずのレシピ111と裏ワザ48〜
監修:山縣 邦弘
筑波大学医学医療系 腎臓内科学教授
料理考案:金丸 絵里加
管理栄養士
(株)主婦と生活社 1250円
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腎臓病の食事療法についての本です。
腎臓病には、食事療法が必要になります。
食事療法を実践することで、腎機能の悪化を防ぐことができます。
残念ながら、「食事療法で改善する!」とは、言い難いのですが。
もし食事療法をまったく考慮しなければ、尿毒素物質の蓄積を招き、
腎機能の悪化を速めてしまうことになります。
日本腎臓学会では、腎機能に応じた食事療法の必要性を指導しています。
たとえば、「標準体重当たり、0.8gのタンパク質摂取」と解説してありますが、
それをどのように実践するかというのは、実際的にはなかなか難しい問題です。
それを説明するのが、医師、看護師、栄養士などの連携によるチーム医療です。
書店に行って、腎臓病の食事療法について解説してある本は少なくありませんが、
だいたい、私が読んでも難しい本が多いです。
このNHKの本は、そのような腎臓病の食事療法について、分かりやすく書いてあります。
まず、一日のカロリー摂取量をおおまかに決めて、それを3食に配分。
主食の量を決めた上で、副食の量を決めます。
その際に、豊富なレシピを紹介して、それらからチョイスするような記載になっています。
なんといっても、写真がきれいで美味しそうに見えます。
また掲載されているお料理は、普段の家庭料理で、いつもの調味料での味付けです。
普段、食事を作らない私でも、「わあ、美味しそう。どうやって作るんだろう。」と
関心が沸きます。
ひとつひとつのメニューに、タンパク質、塩分の量が記載されていて、
自然に、タンパク質や塩分の摂取量を意識するようになります。
見やすく分かりやすいという意味で、お勧めの本です。
当院の栄養士も分かりやすいと評しています。
分かりやすい、「腎臓病の食事療法」の参考書をお探しの方は、
一度、ご覧になってください。
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この本面白い(23) 「科学者はなぜ神を信じるのか」
〜コペルニクスからホーキングまで〜
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科学者はなぜ神を信じるのか
〜コペルニクスからホーキングまで〜
三田一郎著
ブルーバックス 社 1,000円
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この本は、タイトルが面白そうだから手に取りました。
著者の三田一郎(さんだ・いちろう)先生は、名古屋大学名誉教授で、素粒子物理学者です。
名古屋大学理学部教授をはじめ様々な要職に着かれています。
と同時に、カトリック名古屋司教区終身助祭というカトリック信者でもあられる点がユニークというか、この本の生まれる由縁なのかもしれません。
中世、カトリック教義により天動説が信じられていた通説に、コペルニクスが地動説を提唱します。地動説といえばコペルニクスが提唱したものと思っていましたが、実はピタゴラス学派が紀元前にすでに提唱していたことと説明されています。またこのピタゴラスの地動説ともいえる説を封じたのは、アリストテレスであったとも説明されています。
これ以降も、ガリレオ、ニュートン、アインシュタインと、物理学の巨人たちの足跡と、彼らが神の存在をどのように捉えていたかというエピソードを交えて本は進みます。
アインシュタインの、E=mC2 という式は、あまりにも有名で、そこまではなんとか付いて行けましたが、その後、光は粒子であり、波であるというあたりになると理解できなくなりました。
時空のゆがみとか、宇宙は定常状態なのか膨張しているのかという議論で、アインシュタインでさえも間違えた宇宙項の扱いなど難解でした。でもそれさえも人間の智恵が解決を見つける。
新たな公式を発見して解を見つけた時、精緻な公式に感嘆すると同時に、その公式を書いたのは誰かという疑問に突き当たる。
そこに神の存在を置くか、置かぬかは、各自の感性の問題であろう。
最後の登場者で、難病ALSにて2018年3月14日に亡くなったホーキング博士の紹介では、宇宙の誕生ビッグバンについて簡単に説明されています。
宇宙 のはじまりは、ビッグバンと呼ばれる10のマイナス32乗秒のあいだに、小さな宇宙が10の43乗倍に膨張するという理論だそうですが、そう言われても聞いたことも見たこともないような次元の話に戸惑います。
物理学者というのは、こんな次元のことを考えているのですね。
著者の三田先生は、末尾に。
不思議な現象に出会ったときに最初から「神様がお作りになったのだ」という人は、絶対に科学者ではない。
しかし、「この宇宙のはじまりを、神を持ち出さずにすべて理解した。もはや神は必要ではない。」と考えることはそれこそ思考停止ではないでしょうか。
(中略)
科学者とは自然に対して最も謙虚な者であるべきであり、そのことと神を信じる姿勢とはまったく矛盾しないのです。
一応、なんとか読み終えて、、
日頃、物理学とか、光とか、時間とか、宇宙とか、あまり考えることもないので、高校以来の久しぶりの物理の話が興味深かったです。
それにしても、科学史に残る偉人たちの業績を紹介するとともに、その生い立ちなどのエピソードも交えて、教会との関係、信仰についてなど幅広く興味深く紹介するなど、さすがに長くこの道で研究されてこられたがゆえの幅広い視野で記述されていて、面白かったです。大変な労作と拝察致します。
折りしも、ちょっと悩み事を抱えて、この本を読んでいたのですが、量子力学とか宇宙とかビッグバンとか、広大な次元の話を読んでいるうちに、私の悩みなどちっぽけなものと思われてきました。良いタイミングでこの本に出会ったと思いました。
ちょっと難しいけれど、物理学の進歩をレビューできるという意味でも、オススメの一冊です。
(平成30年8月26日 奈良桜井 巻向古墳にて)
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この本面白い(22) 「ロマンで古代史は読み解けない」 〜科学者が結ぶ、地図と陰陽〜
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ロマンで古代史は読み解けない
〜科学者が結ぶ、地図と陰陽〜
坂本貴和子・渡辺英治 著
彩流社
1,700円
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これは、歴史の本です。
でもこの本がとてもユニークなのは、著者の、坂本貴和子さん、渡辺英治さんのお二人ともが、現役の科学者であるということです。
お二人とも、愛知県岡崎市の自然科学研究機構にて、坂本貴和子先生は生理学研究所で「ヒトの脳機能」を、渡辺英治先生は基礎生物学研究所で「動物の心理」を研究されているそうです。そのバリバリの理系科学者であるお二人が、歴史好きという共通点からこの本を書かれました。
歴史の専門家ではないお二人が利用したのが、インターネットというツールでした。
インターネットを利用して瞬時に地理を把握し計測することで、新しい視点から日本の古代史を見つめます。
伊勢神宮の内宮と下宮の2社構造、その鬼門と裏鬼門にあたる北東、南西の位置にある、諏訪大社と熊野大社。
いずれもが2社構造をとるということ。
出雲大社と出雲の熊野神社の2社構造。諏訪大社の上宮と下宮の2社構造。
それらには精緻に仕組まれた陰陽道の思想が秘められていると解説します。
陰陽道を研究する陰陽寮は、第40代天皇の天武天皇により676年に創設されてから明治3年まで存続し、暦や天文の知識を研究してきたそうです。陰陽寮の主要な研究目標であった暦の変遷についても詳しく記載されており、日本が現在の太陽暦を採用する明治6年まで幾多の暦が採用されたことが分かりました。
最後には、現在お二人が勤務する自然科学研究機構のある岡崎市に、「六」にちなむ地名が北東に向かって並ぶことを示します。そして岡崎市は伊勢神宮の北東にあり、さらに北東に線を引くと、長野県小諸市に、群馬県前橋市に、山形県寒河江市に、「六供」という町名が並ぶことを示します。
「六」は自然界にあって亀の甲羅の亀甲紋にも見られるように耐力構造に優れることから、陰陽道の教えに従い、伊勢神宮の鬼門に当たる北東に、「六供」という地名を並べたのではないかと推理します。
それぞれ時の為政者は伊勢神宮を中心に、陰陽道という教えに従い、さまざまな整備を行い、この国を護ろうとしたのではないかというロマンあふれる推理が繰り広げられる、非常に楽しい知的興奮を感じさせる本でした。 ご一読をお勧めします。
(平成30年8月23日)
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この本面白い(21) 「栄養データはこう読む!」
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「栄養データはこう読む!」
女子栄養大学出版部
著者 佐々木敏
2,700円
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東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の書かれた、本を読みました。
佐々木敏先生は、EBN, evidence based nutrition という考え方を提唱され、根拠に基づく栄養学の立場から、5年ごとに改定される「日本人の食事摂取基準」を作成されるなど、日本人の栄養学をリードされている先生です。
正直、栄養学について、ここまで詳細に科学的に、かつ分かりやすく解説された本を初めて見つけました。大変読みやすく、一気に最後まで読み通しました。
血中コレステロールの上昇には、食事中のコレステロールの摂取だけではなく、
飽和脂肪酸の摂取が影響する。
食物油による揚げ物では、血中コレステロールは上昇しない。
中性脂肪を上げやすいのは、脂質より炭水化物の方が上げやすい。
食塩と高血圧
国際連合による生活習慣病の予防には、タバコについで、2番目に減塩が重要。
食塩の摂取量は、血圧の自然増を加速するというデータなど。
肥満の問題
アメリカでは、心筋梗塞の予防から、ローファットの食事が推奨されたが、
同時に、ソフトドリンクの過剰摂取、砂糖よりも安価なシロップの消費増から
カロリー過多となり肥満の蔓延、糖尿病の増加など。
食べる速さと肥満の関係を調べた実験
ソフトドリンクの過剰摂取は、規則正しい食生活のリズムを壊す。
朝食を摂ったかどうかと、20年後の肥満の有無を調べた研究
アルコール
ビールを飲むとおなかが太るか?
ワインは健康によいか?
健康に良いのは、地中海食か和食か?
そして、健康に関する情報をどのように収集し、鵜呑みにすることなく、
あるいは惑わされることなく、自分の健康づくりに役だてるか?
といった栄養リテラシーの話。
文章が明快で分かりやすく、また論文等の資料も丁寧に掲載されており、
とても良い本だと思いました。
この本を読んで、佐々木敏先生の著書をもっと読みたくなり、姉妹本である、「データ栄養学のすすめ」や、「日本人の食事摂取基準 2015年版」なども購入しました。
栄養に関する情報のあふれる現在、エビデンスに基づいた正しい栄養情報を身につけて、健康管理に役立てたいものです。
日本人皆が知っておきたい、栄養学の指針と思いました。
ご一読をお勧めします。
(平成30年8月1日)
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この本面白い(20) 「今日は泣いて、明日は笑いなさい」
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「
今日は泣いて、
明日は笑いなさい」
浄土宗大蓮寺・王典院住職
秋田光彦著
メディアファクトリー
1,000円
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ご厚誼を頂いている、大阪の浄土宗大蓮寺・王典院住職 秋田光彦師が新著を発刊されました。
有難いことに、私もこの著書に一葉紹介して頂いております。なんて紹介して下さっているのかは、皆様お手に取って頂いてお読みくださいね。
秋田光彦和尚様
このたびは新調なったご本をご恵送頂き有り難うございました。
このご本を読ませて頂いて、あたかもキラキラと輝く万華鏡を覗いているかのような気持ちになりました。
ある頁は口笛を吹きながら自転車のペダルを踏むように、すいすいと心地よく読み進める頁があるかと思えば、別の頁では思わず正座して居住まいを正して息をつめて一字一句を確認して読まずにはおれない頁があったり。赤裸にご自身のことにも触れておられたり。
2頁読み切りで大きな活字でかろやかに読める本かと思いましたが、内容には大変深いことも書かれており、随分と考えさせて頂きました。
おりしも高齢社会が進み、医療や年金や今後の社会保障への不安をあおるような報道、記事があふれています。しかしこのご本は、秋田和尚には当然のことながら、この世の先のあの世を視野に入れて書かれておられます。あの世までも視野に入れた視点からみれば、この世の不安も晴れていくような気持ちになります。
たくさん素敵な言葉が散りばめられています。
153頁、「お墓が、人生を励ましてくれている。それもあり、だと思います。」これ秋田和尚様らしくて、いいなあ。
175頁、「明日死ぬと思って生きなさい。永遠に生きると思って学びなさい」(ガンジー)
それにしてもお寺は本当に休みなしで多忙な毎日なんですね。そのお忙しい毎日のできごとを、このように一冊の本に素敵にまとめられたことに、あらためて敬意を表します。
そしてこのご本のなかの一葉に入れて頂いたことにも感謝です。
パドマ幼稚園創立60年の勝縁にと結びにありますが、2013年年の瀬に素敵な本を世に贈り出してくださり、有り難うございました。
今後ともよろしくご指導ください。
益々のご活躍ご発展を祈念いたします。
(平成25年5月10日)
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この本面白い(19) 「人は死なない」-ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索-
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人は死なない
-ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索-
東京大学医学系研究科・
医学部救急医学文屋教授
医学部付属病院救急部・
集中治療部部長
矢作直樹著
バジリコ社 1300円
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著者の矢作直樹先生とは、実は私は金沢大学の同級生である。
同級生とはいっても、学生時代の彼の印象と言えば、山が好きで独りで山行を繰り返しているという記憶があるくらいで、当時から世俗を離れた超然としたところがあったように記憶している。
大学を卒業した後、彼は一時、吹田の国立循環器病センターに勤務されていた。当時、関西労災病院に勤務していた私は、医局での勉強会に彼を招き集中治療について話をしてもらったことがある。
その頃も超人的な働き方をされていた。しかも、それを誇るでもなく粛々と仕事に取り組んでおられる様子であった。
その後東大病院へ移られ、東大病院に救命救急部や集中治療室を作られるなど大活躍されていることも、さりげなく紹介されている。
国立循環器病センターや東大病院という最先端病院の集中治療室で、文字どうり最先端の近代医療に従事する彼が、このような「人は死なない」という、ショッキングなタイトルの本を書いたことにはかなり驚かされた。
実は、以前にこの本を購入して読んでいたのであるが、途中でよく分からなくなって一度、読書を中断したことがあった。それが、ふとしたきっかけでもう一度読んでみようと読み始めた。
彼は、この本のなかで、人間は近代自然科学とくに医学が研究の対象としてきた身体(Physics)としてのみでなく、霊(Spiritual)と称すものとの総体であるということを述べている。
臨死状態になったときに身体から霊が分離したような体験談を紹介したり、霊というものを研究した先人たちを紹介している。彼自身も両親についての経験から自分の霊的な体験を述べておられる。
彼がこのような超常現象に深く興味を持つようになったことについては、彼自身が単独で北アルプスなどの登頂に挑む登山家としての経験が影響を与えているのかもしれない。実際2度の滑落事故を経験され、文字どうり九死に一生を得たことも紹介されている。吹雪の雪山の中で何度も死と隣り合わせの経験をしながら思索を深めたことだろう。また病院の集中治療室で臨死の患者を見つめながら、やはり思索を深めたのであろう。
そのような彼の経験のすべてが、この本の中身を深いものにしているように感じる。
また過去の研究者の霊に関する研究などもよく調べたなと感心する。
毎日の診療のなかで、このように資料を読み思索を深めていかれたことには深く敬意を表したい。
近代実証主義の中で育った私たちに霊の存在を証明することはできない。
そこは彼自身が著書のなかで述べておられるように、このような霊的現象を他の自然科学と同様に証明する必要があるのだろうか。霊的現象は自然科学的弁証法では説明できない次元の異なる事象ととらえるべきではなかろうかと、述べるに留めておられる。
そして人は肉体といういう意味では有限な寿命を持ちいずれ死を迎えるが、死を迎えた後も霊的には存在する。
ここで彼は少し逆説的に、霊の永続性を良心に照らして述べておられる。すなわち人間の良心というのはどこから生まれてくるのだろうという疑問である。彼は、人は死んでも霊は残り、それが摂理として継承されたものが生まれつき人間に備わる良心というものではないか、と問いかける。
著者は最後に、”人はみな理性と直観のバランスをとり、自分が生かされていることを謙虚に自覚し、良心に耳を傾け、足るを知り、心身を労り、利他行をし、今を一生懸命に生きられたらと私は思っています。そして、「死」を冷静に見つめ穏やかな気持ちでそれを迎え、「生」を全うしたいものです。”とこの本を締めくくる。
私もそうありたいものだと、深くうなづく。
最後には、医療について、また病気とのつきあいかた、いずれ訪れる「死」への受けとめかたなど、その内容は宗教というものとも重なるのかもしれないが、彼の語りは宗教のように教条的ではなく、やはり「ある臨床医の摂理と霊性をめぐる思索」と表現するのがふさわしいように思う。
大学時代など、もう30年も昔のことになってしまった。
随分の時間が経ったわけではあるけれど、僅かながらも彼の学生時代を知るがゆえに、彼の人柄を知るがゆえに、彼の著書を一読に価すると紹介したい。
(平成25年5月10日)
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この本面白い(18) 「腎臓のはなし」130グラムの臓器の大きな役割
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「腎臓のはなし」
130グラムの臓器の大きな役割
順天堂大学
解剖学教授 坂井健雄著
中公新書 820
円
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腎臓病について、いくつか一般の方向けの医学書は出版されていますが、この本は、臨床医ではなくて解剖学の教授が腎臓について一般向けに書かれた本であるところがかなり珍しい本だと思います。
解剖学の教授でありますから、腎臓の形態についてが中心です。
ウナギ、ヤモリ、カエルなどの両生類から、ラットなど哺乳類まで生物の種族を超えて、腎臓の基本的な構造は保たれているという話には、あらためて驚くとともに、腎臓のもつ血液を濾過し体液の恒常性を保つという普遍的な機能が生物にとって基本的に重要であることに気づかされました。
また腎臓という組織を力学という面から捉えて、充分な濾過を得る一方で組織への圧力負荷を避けるために、毛細血管網が発達したという説明には納得しました。
一方、尿の濃縮の機序の説明は私が読んでもちょっと難しかったです。
一般の方が読むには、ちょっと難解かとも思いますが、腎臓という静かな、著者の言葉を借りれば、「賢明で寡黙な哲学者のような腎臓の姿を知る」には興味深い本だと思いました。
坂井健雄先生の腎臓への愛を感じた次第です。
(平成25年5月7日)
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この本面白い(17)
「腎臓病から見えた老化の秘密」 クロトー遺伝子の可能性
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「腎臓病から見えた老化の秘密」
クロトー遺伝子の可能性
草野英二 黒尾誠 共著
日本医学館 1,000円
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今、腎臓が老化という現象に深く関わっているのではないかと言う話題が注目されている。平成24年3月号の、「腎と透析」という医学雑誌も、「klothoと腎臓病」という特集を組んでいる。
ちなみに、クロトー(Klotho)とは、ギリシア神話の中で、万能の神ゼウスと妻テミスの娘で、運命を支配する3姉妹の女神の一人だそうだ。長女クロトーは生命の糸を梳き紡ぐ、次女ラキシスは糸の長さを測る。三女アトロポスは糸を切って生命の終焉を告げるとされる。この3人の女神によって決められた寿命は、何人たりとも変更することはできないとされているそうだ。
Klothoと名づけられた老化抑制遺伝子が見つかったのは、1997年。日本人の黒尾誠先生の発見による。この遺伝子を破壊すると、マウスに早老症候群が起こり、逆に過剰に発現すると、寿命が延びることがわかった。
このKlotho遺伝子のつくるKlotho蛋白は、FGF23呼ばれる因子の受容体となっていることがわかった。FGF23(Fibroblast
growing factor 23)とは、骨細胞から分泌されて、尿中へのリンの排泄を促す因子である。
FGF23が働くためには、Klotho蛋白の存在が必要であり、FGF23が働かないと、リンの蓄積が起こる。簡単に言うと、リンの蓄積が、早老症候群の発症に必要であることがわかってきた。
このKlotho遺伝子が、体の中では、主に腎臓で発現していること。
リン利尿因子のFGF23と緊密な連絡を持つことなどから、腎臓病と老化、リンの貯留、血管の石灰化、骨代謝といった問題が、KlothoとFGF23という因子の解明で、新たな展開が始まろうとしている。
腎臓は、単に老廃物を排泄する臓器から、老化を制御する臓器であるのかもしれない。今後の研究の展開が興味深い。
(平成24年4月2日)
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この本面白い(16)
「くじけないで」 「百歳」
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「くじけないで」
「百歳」
柴田 トヨ
飛鳥新社 1000円
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「百歳の詩人」として、あまりにも有名な、柴田トヨさんの詩集を読ませて頂きました。
はじめての詩集、「くじけないで」が、150万部もの大評判になったことは、存じていましたが、実際に詩集を手にしたのは、初めてです。
二冊目の詩集は、「百歳」。
百歳の方でも、こんな瑞々しい感性をお持ちだなんて、驚きですね。
若者にも劣らぬ感性、やはり女性だなと伺わせる感性、 一人息子さんのことが、倅としてよく出てくるが、百歳になっても母は母。
そしてこの人の詩は、前を向いている。
百歳になっても前を向いている。
短い文章の中に、感性と前向きの気持ちが混じって、広がって、読む者の胸に飛び込んでくる。
すばらしいね、この百歳!
いまふうで言えば、思わず、いいね!をクリックしたい。
この詩集を読んで、アランの幸福論の言葉を思い出した。
悲観主義は感情で、楽観主義は意思の力による。
という言葉である。
詩集に垣間見られる、ある種の楽観主義は、しかし、まごうことなく作者の意思によると解釈する。
(平成24年4月1日)
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この本面白い(15)
「きらめく定年後」
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「きらめく定年後」
島 健二 著
論創社 1600円
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さて、先生から前著「定年教授は新入生」の続編にあたる「きらめく定年後」なる御著書をお贈り頂き誠にありがとうございました。
今回の御本もですが、先生の御本は大変読みやすいです。
文章が適度に切れていて、リズムがあって、とても読みやすいです。
これはやはり医学者であられることから、自然と学術論文のスタイルで文章を書かれているからか、あるいは私も医師の端くれとして、そのような調子に親しんできたからか、リズムが私には馴染むのか、大変読みやすく感じます。
この先生の文章の読みやすさというのは、ちょっと特徴的ではないかと思います。
口語体であって、語りかけるような文調でありながら、説教くさくもないし、そういう意味では、あまり他に類をみない文調ではないかと思いました。
私は、それを「先輩調」と名付けました。
語りかけるようでありながら、説教くさくもないし、諭すような押し付けるようなところもないし、得てしてそのような臭いのする本が多い中で、先生の本は異彩を放っておられると思います。
それは、先生が理屈ではなく、実際に体験されたことを中心に、同時にその経験を医学者らしく客観的にも観察されて、複眼で記述されているところが、大変ユニークで、また親しみも感じられて、今回の御本も大変面白く、興味をもって読むことが出来ました。
それにつけましても、教授退官後、徳島大学総合科学での考古学の専攻、引き続いて、修士課程への進学、英文学の学習、修士論文の作成。
退官後の良き町医者の実践。奥様の御病気をとおしての考察。男の料理の経験。
フルマラソンの話題。お遍路さんの体験。
そして人生の先輩として、また医師としての、円熟した人生観など。
実に盛り沢山の内容にも関わらず、なにごとにも一生懸命にがっぷりと取り組まれ、真摯に、時にユーモラスに取り組まれる姿は、読む者に、清清しさと元気を与える、今回も好著と存じました。
先生を範として、私も自分の人生に相応に粛々と対応していきたいと思う次第です。
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この本面白い(14)
「いのちのレッスン」
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「いのちのレッスン」
内藤いづみ、米沢慧 著
雲母書房 1600円
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内藤いづみさんから、新刊の著書を贈って頂きました。
内藤いづみさんは、甲府市で在宅ホスピス活動を続けている女性医師です。
言葉の表現の上手な人で、多くの講演活動や著作もされています。
当院の事務長と仲がいいことから、私もその輪に入れて頂き、時折、著作をお贈り頂いたりしています。
この本を通じて、内藤さん、米沢さんが伝えたかったこと。
それは、がん対策基本法ができて、緩和医療というものが、がんの診療の中に位置づけられたこと、それはとても重要なことではあるけれど、時に疼痛緩和などの知識や手技に偏ってしまい、
ホスピスにとって最も大切な、患者の声に耳を傾けるという姿勢が、喪われがちになっているのではないか。
という指摘ではないかと思います。
キュブラー・ロスや、オカムラアキヒコの足跡を追いながら、ホスピスの本流を忘れるなという警鐘を鳴らしておられるのではないかと思います。
内藤いづみさんの実践と、オカムラアキヒコさんとの交遊を通じ以後ホスピス活動の普及に尽力される評論家の米沢慧さんの往復書簡からは、行動する情熱と分析する知が混じって、ホスピスの在り様を考えさせてくれる好著に仕上がっていると思います。
御一読をお勧めいたします。
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この本面白い(13)
平成20年4月号の医学雑誌「治療」vol90(4)2008 慢性腎臓病(CKD)特集
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慢性腎臓病(CKD)特集
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平成20年4月号の医学雑誌「治療」vol90(4)、2008.は、慢性腎臓病(CKD)特集でしたが、「いまい内科クリニックでの対応」という題で小論を投稿する機会を得ました。
昨今注目されるCKDについて、当院での実際に体験した腎臓病の症例を中心にまとめました。よいまとめと勉強の機会になりました。
今回あらためて、慢性腎臓病(CKD)というのは長い経過になるので、地域の開業医がプライマリケアとして診療にあたるのが望ましいのではないかと思いました。
また担当する医師としても、血圧、脂質の管理、食事の指導など、多方面なかかわりが必要です。ぞくぞくと登場する有効な新薬をはじめ多種の薬剤を駆使して、とてもやりがいのある仕事だと思います。
今回の論文の掲載を機に、今後も一層、腎臓病診療に尽力したいと思います。
(平成20年4月15日)
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この本面白い(12)
「がんの在宅ホスピスケアガイド」
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「がんの在宅ホスピスケアガイド」
吉田利康著
日本評論社 1500円
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この本面白い(11)
「生物と無生物のあいだ」
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「生物と無生物のあいだ」
福岡 伸一 著
講談社現代新書 760円
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いま本屋さんに行くと、この本がかなり店頭に積んである。
さまざま新聞の書評でも紹介された、面白くて一気に読めると評判の、サイエンスノンフィクションであるので、私も早速読んでみた。
確かに面白い。
この本の著者は、福岡伸一先生である。
http://www.chem.aoyama.ac.jp/fukuokalab/
現役の生物学者である先生が、「生命とはなにか?」という命題の解説に取り組んだ本である。
彼は、生命とはなにか?という問いに以下のように答える。
1、生命とは「自己複製するシステムである。」
そして、自己複製を可能にする、おそらく20世紀最大の生命科学の発見である、DNAのらせん構造の解明にまつわる話を紹介してくれる。
1953年、ワトソンとクリックにより英の科学雑誌ネイチャーに発表された、DNAのらせん構造解明の論文は、なんとわずか1000語で書かれた短文であったという。そしてらせんの構造に方向性があり、互いに相補的な構造をなすという知見は、同時に自己複製の本体をも見事に説明する知見だった。
この偉大な発見にまつわる話として、ノーベル賞を受賞したワトソンとクリックの陰に隠れて、DNAのX線構造解析を通して、らせん構造の解明に多大の貢献をしたロザリンドフランクリンの業績を交えて、世紀の発見の裏に隠された人間模様をも解説してくれる。
次いで、彼は、生命とは、
2、「動的平衡にある流れである」と定義する。
その分かりやすい説明に、彼は浜辺の造られた砂上の楼閣に生命体を例える。
押し寄せる波に洗われるたびに砂上の楼閣の一部の砂は崩れて海に運ばれる。
そのままでは、あっという間に崩れてしまう楼閣が、しかし波にさらわれる一方で、波によって運ばれる砂で修復されるとすれば、生命体は本来のカタチを損なうことなく存在しえる。と解説する。
実際、放射性同位元素で標識されたアミノ酸を餌として3日間与えられたネズミの実験では、3日間与えられたアミノ酸の60%がネズミの体内に取り込まれたという。まさしく上述の砂上の楼閣のように、私たちの体は、毎日その組成から激しくダイナミックな新陳代謝を繰り返しているのである。
固体と思っている生命体も、ちいさな原子のレベルでみると、毎日激しく入れ替わる砂粒の集合体ということができる。
最後に、ご自身が取り組まれた実験を紹介されているが、その実験は、生命の機能に重要な役割を演じると思われるタンパク質を発見し、それを遺伝子操作することで発現しないように操作したノックアウトマウスの観察から、たとえひとつの非常に重要な役割をもつタンパク質の遺伝子を壊して、その生体での発現を止めたとしても、生命はその他の代償する機構を使って、生命体の維持を可能にするという実例を紹介されている。
生命とは互いに代償するしなやかさをもちつつ、動的平衡を維持するシステムなのである。と。
小さな原子、小さなタンパク質のピースの無数とも言える集合体からなる生体は、受精卵が成立した瞬間から、時間のながれに沿って、組み込まれている生命のプログラムに沿って、自己複製をしながら、動的な平衡状態を保ち続けるシステムといえる。
随分、原著を意訳したかもしれませんが、あらためて生命とはと考えさせてくれた本でした。
このような原子の時間軸での振る舞いの中に、意識が生まれ、記憶が生まれ、感情が生まれていく。
あらためて、「生きる」とは、不思議な現象であると感じた次第です。
DNAの発見に続く20世紀の生命科学の進歩に触れながら、生命とはという問題について、分りやすく解説してくれた、時には文学的な感性も光る好著でした。
さすがに、書評で高い評価を得ることはあると思いました。
なお、福岡伸一さんの名前を、ネットで探していたら、もう一人の気になる作家、内田樹さんのブログに行き当たりました。
http://blog.tatsuru.com/
次は、この今年の、小林秀雄賞を受賞された、内田樹先生の本を読んでみたいと思います。
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この本面白い(10)
「寡黙なる巨人」
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「寡黙なる巨人」
多田富雄著
集英社 1575円
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世界的な免疫学者として、あまりにも有名な東大教授にして免疫学者である多田富雄先生が、突然の脳梗塞に倒れられてからの復活の体験記です。
突然、まったく右半身の動きと声を失うことになった多田富雄先生ですが、一時は自死も覚悟した状況から、懸命のリハビリに取り組まれます。
「寡黙なる巨人」とは、そんな懸命のリハビリの結果、かすかに動き始めた自分の足に気づいたとき、彼は、自分本来のからだは脳梗塞のために動かなくなってしまったはずだ。今日、再びわずかながら自分のからだが動き始めたのは、自分のからだの中に、新しい人、「寡黙なる巨人」が現れたからだと、書いておられます。
http://www.st.rim.or.jp/~success/tadatomio_ye.html
http://www.st.rim.or.jp/~success/tadatomio2_ye.html
脚光を浴びる人生から、一転、重度障害者の人生へ。
死をも覚悟した心境から這いあがる姿勢に、そしてさすがに一流の科学者らしく自らの姿を客観視する姿に、ある意味、人間の本質、可能性を感じました。
自作の詩の中から、引用です。
「死ぬことなんか容易い
生きたままこれを見なければならぬ
よく見ておけ地獄はここだ
遠いところにあるわけではない
ここなのだ 君だって行けるところなのだ
老人はこういい捨てて呆然として帰っていった」
スピリチュアルペインといったものは、こういう痛みかもしれないと思いました。
脳梗塞を患った人の心の機微を、そして再生への歩みを。
リハビリテーションとは、単に喪失した機能の回復ではなく、人間性の回復である。という多田富雄先生の発言は、多くの同病を患う患者にとって、また障害者にとって、大きな支えになることだと思います。
脳梗塞に倒れてからの闘病記ですが、御趣味でもあり造詣の深い「能楽」からの引用や、折に触れてのエッセイも交えて、薀蓄の深い闘病記と拝見しました。
ご一読をお勧めします。
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この本面白い(9)
「物語の役割」
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「物語の役割」
小川洋子著
ちくまプリマー新書 680円
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小川洋子さんといえば、「博士の愛した数式」という本でベストセラーになって有名な方ですが、透明で静謐な文章が印象的な作家です。
その小川洋子さんが、小説はいかにして生まれるかといったことを御自身の体験の中から、綴ったのがこの本です。
人は皆、物語を持っている。
小説家は小説を書くにあたって、ストーリーを書くのではない。
すでに、あちらこちらに隠れ潜んでいる物語を掘り起こすのだ。
そうすれば物語は、小説のなかで自然に語りだす。
小説を書くとは、そういうことなんです。
と著者は静かに語ります。
次いで、物語の役割にふれて、、、、
たとえば、非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき、人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形にあうようにその現実をいろいろ変形させ、どうにかしてその現実を受け入れようとする。
もうそこで一つの物語を作っているわけです。
自分にとって悲しいことはうんと小さくしてというふうに、自分の記憶の形に似合うようなものに変えて、現実を物語にして、自分の中に積み重ねていく。
そういう意味でいえば、誰でも生きている限りは物語を必要としており、物語に助けられながら、どうにか現実との折り合いをつけているのです。
開業医という仕事は、患者さんの身近にあって、個人個人の物語を、あるいはひょっとするとその最終章を仕上げるお手伝いをすることかも知れませんね。
私にとっても、開業医という仕事は、そんな患者個人の物語を読みとくような、そんなふうに患者さんに関わりたいなと、思った次第です。
いま、日本の医療は、大きな変革期にあります。
それが実感として、感じられます。
これから、益々効率が求められていきます。
保険証もICカードになり、さまざまな医療情報が一元化され、集積されようとしています。
管理医療がどんどん進められていく、そんな時代の流れのなかで、患者個人の思いを大切にして、それぞれの物語を読みとく、そんな姿勢を忘れないでいたいと思います。
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この本面白い(8)
「あなたの家にかえろう」
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おかえりなさいプロジェクト
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”あなたもわたしも仕事が終われば家へ帰る。
それと同じように、人生という仕事が終わる時は家に帰ろう。”
私の友人で尼崎の桜井隆さんたちが中心になって作った在宅療養のためのガイドブックです。
桜井さんたち医師だけでなく、ケアマネージャー、看護師、そして遺族の方も含めて、在宅療養なかでも在宅で人生の最期を迎える在宅ホスピスを支えようとする有志が集まった「おかえりなさいプロジェクト」が作成しました。
在宅医療の実際、在宅医療を支える訪問看護ステーションなどの紹介、相談の窓口、医療費のこと、そして実際の臨終の際の対応など、在宅医療のエッセンスが優しい言葉とイラストで飾られています。
在宅医療を推進する勇美記念財団の助成により作成されていますので無料(送料のみ負担)です。
冊子ご希望の方は、尼崎市のさくらいクリニックまでお申し込みください。
http://www.reference.co.jp/sakurai/
当院でも受け付けております。
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この本面白い(7)
「名言セラピー 〜3秒でハッピーになる〜」
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デイスカバー社 1,200円
ひすいこたろう著
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たまには、軽く読める一冊を。
たった3秒でハッピーになるという、軽いキャッチコピーですが、意外と、本当かも。
ほんわか、ハッピーになるのに、案外時間は問題ではないかも知れません。
たとえば、、長寿世界一のギネスレコードを持つ、泉八千代さん(120歳237日)の名言として、泉さんが最年長を記録した記念のパーテイーの席上で、司会の人から、「どんな女性が好きですか?」という質問に対して、世界最年長の泉八千代さんは、照れながら、「わしはこう見えても、甘えん坊なところがあるから、年上の人が好き!」と答えたそうです。
このユーモアセンスが、健康長寿の秘訣かも?!というような、素敵な名言が集められています。
著者のひすいこたろうさんは心理学を勉強しながら、さまざまな人生の達人たちの人生を3秒で変えるものの見方、視点を紹介してくれます。
ものの見方、捉え方で、こうも気持ちが変化するということ。
小さな本ですが、読みやすい工夫がしてあって、ちょっと落ち込んだときなんかに有効かも知れません。ご紹介します。
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この本面白い(6)
「〜初学者から専門医までの〜腎臓学入門」
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東京医学社 4,200円
日本腎臓学会編集委員会編集
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この本は、日本腎臓学会誌編集委員会が中心になって、最近の広範な腎臓学の進歩を解説したものである。
医学専門書ではあるが、大きな活字と平易な文章で分かりやすい記述に工夫が見られる。
序言の言葉に、東京慈恵会医大の川口良人教授が、「腎臓病専門医の標準的到達点をしめすテキストとして、また腎臓病学の最新の、整理された情報源として参照される価値のあるもの。」と記載されているように、私のように、町の開業医として実地の臨床を続けるものにとっては、有難い教科書である。
昨今、インターネットが花盛りであるが、学会のような学術団体が本書のような、まとまりのある教科書を発行していただくことが、医師の生涯教育には必要だと思う。
今後も継続して改訂が行われることを願います。
医学専門書ではありますが、腎臓病学の現時点での分かりやすい解説書として有用と思い、紹介致します。
東京医学社のホームページからも購入可能です。
http://www.tokyo-igakusha.co.jp/tankou/naika/jinzougaku.htm
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この本面白い(5)
「常用字解」
「桂東雑記I」
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平凡社 2,940円
白川静 著
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白川静博士のお名前は、以前から存じておりました。
日本の漢字学研究の泰斗であられ、長年の業績から平成16年度の文化勲章を受章されたとお聞きしておりました。
一度、その著作を読んでみたいものだと思っておりましたが、先日市内の本屋で、白川先生の書かれた、「常用字解」という、常用漢字1945字について、その成り立ちを解説された基本辞典を求めることができました。
興味のあるところ、ぱらぱらと紐解きますに、私達の身の回りで、日常使用する漢字にこんなに奥深い、豊かな世界があったのかと目を見張る思いでした。
たとえば、私の名前の一字、「信」という字を紐解いてみますと、「人と言とを組み合わせた形、神に誓いを立てた上で、人との間に約束したことを『信』という。それで『まこと、まことにする』の意となる。」と記載されています。
こうして、自分の名前に当てられた漢字の意味を知るにつけ、名づけてくれた両親への感謝の気持ちもあらためて感じる次第です。
カタカナ言葉が氾濫する現在、あらためて漢字の世界に籠められた、われわれ日本人の歴史や精神性を思索するに良い本ではないかと思いました。
いい本に巡り合ったなと思い、ここに御紹介させて頂きます。
おなじく、「桂東雑記」は、白川博士の漢字をめぐるエッセイ集です。
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平凡社 1,890円
白川静 著
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この本面白い(4)
「〜初学者から専門医までの〜腎臓学入門」
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集英社 2,205円
佐野藤右衛門著
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久しぶりの良書の紹介です。この本は、ある林業を営まれる方からご紹介いただきましたが、もうすぐ今年も桜が本番となります。この本を読んで桜の見方が少し変わりそうです。「桜よ」というタイトルが示すように、日本の国花である、さくらへの想いを込めた一冊です。いうまでもなく、桜は日本の象徴であり、その淡い花の色と、咲き誇るあでやかさ、そして散り際の潔さなど、まことに日本人の美意識を象徴するものです。
「敷島のやまとごころを人とはば 朝日ににほう山桜花」と詠んだ本居宣長は、自らの墓標には一本の桜を植えよと願い、西行法師は「ねがはくは 花のしたにて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」と歌っています。
そのような日本人を魅了する桜を守り、育てる「桜守」の熱い想いを綴った本です。
著者の佐野藤右衛門さんは、京都植藤造園の第16代当主とのこと、仁和寺御室御所に代々仕えるお家だったそうですが、第11代が植木職をはじめられ、第14代より特に桜守と呼ばれるようになったそうです。日本の桜を守るべく、本願寺の大谷光瑞門主の庇護のもと、この第14代が日本中の名桜を集めその保護に尽力されたのです。
日本には、桜の種類はおよそ300種以上もあるとのこと。
でも、大まかには日本に自生する桜は、山桜、彼岸桜、大島桜の三種類だそうです。簡単な3種の区別の方法が書いてありました、大島桜は葉の表面に細かい緻密な繊毛とよばれる毛が生えているそうです。これで食べ物を包むと腐敗菌が入りにくく、防腐作用があるそうです。山桜の幹はツルッとしていて、裂け目が横に入り、皮細工に使われるとのこと。一方、彼岸桜の裂け目は縦にはいるそうです。
京都円山公園の枝垂桜が昭和22年に枯れた時も、第15代佐野藤右衛門さんが移植して、2代目の枝垂桜を育てたという苦労話。台風の時には桜の幹を抱えて嵐の中を踏ん張って守ったというようなエピソードも紹介されています。また兼六園の天然記念物にまで指定された菊桜を守るために、菊桜の接ぎ穂を口にくわえて湿気を与えながら京都に運んだという話など、桜に賭けた人生の迫力に身じろぐ思いです。
いま日本の桜の80%がソメイヨシノだそうですが、この染井吉野とは、明治初期に東京の染井墓地近くの植木屋が「吉野山から採ってきた」と称して売り出した、一種のまがいものだそうです。もともとは伊豆あたりの大島桜と江戸彼岸桜が天然交配して出来た一種の突然変異だそうですが、染井吉野は接木がしやすくて、成長がものすごく早い、またどこに植えても同じように咲くといった便利な桜だそうで、いまや日本の桜の代名詞にもなっています。現在日本の桜を席巻する、この染井吉野は人間の手で作られたクローン桜だということを知りました。絶えず人の手をかけてやらねばならず、そして寿命も50年とかなり短い品種ということです。佐野藤右衛門さんは、桜を愛でるには山桜を一として、染井吉野はどこでも同じように咲く桜として、面白みがない深みがないと嘆いておられます。
藤右衛門さんは、この本の中で日本の名桜を紹介されていますが、以下に列挙します。
いつかこれらの桜を訪ねてみたいものです。
岐阜根尾谷の薄墨桜、北海道根室の千島桜、
京都御所の左近の桜、平野大社、左大文字山の西の原谷の紅枝垂桜、
府立植物園ちかく鴨川の半木の道、清水寺うらの地主神社の桜、
仁和寺の御室桜、京北常照皇寺の九重桜、などなど。
ちょうど、平成17年3月19日の日本経済新聞に日本の名桜のランキングが載っていましたので紹介します。
1. 三春滝桜(福島県三春町、シダレザクラ)
2. 根尾谷淡墨桜(岐阜県本巣市、エドヒガン)
3. 醍醐桜(岡山県落合町、エドヒガン)
4. 山高神代桜(山梨県北杜町、エドヒガン)
5. 荘川桜(岐阜県高山市、エドヒガン)
もう一人、櫻癖(おうへき)と自称した、桜守 笹部新太郎翁のコレクションが酒ミュージアムで開かれているそうです。
武田尾の亦楽山荘にも出向いてみたいものです。 http://www.hakushika.co.jp/group/culture.php
語りかけるような文章から桜への熱い想いが伝わってくるだけでなく、本当に装丁の美しい本です。中のページにはところどころ上欄に花弁が舞っており、この装丁の美しさが桜への愛着を一層伝えます。私もいつか、こんな美しい本を一冊書いてみたいなと夢見て読後感と致します。
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この本面白い(3)
「禁煙外来の子どもたちその後」
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奈良女子大学教授
高橋裕子 著
東京書籍発行 1,500円
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高校生や、中学生の喫煙はあるんだろうなと思っていましたが、この本を読んで小学生までもが次々と診察に来ているという実態に驚きを感じました。
同時に喫煙の低年齢化に対して、子供たちと正面から向かい合い、これは病気(ニコチン中毒)であると認識して真摯に治療にあたっておられる著者たちの活動の一端を伺い知りました。また私たち大人一人一人が、自覚を持つ事が大事であり、禁煙指導は地域ぐるみで行っていく必要があると痛感させられました。
本の帯に記載されている、「タバコを吸う子どもたちを次世代に残さないこと。このことは私たちの世代の大きな責務です。」という言葉に、著者の願いを感じ、誠に同感とうなずく次第です。
具体的な例も沢山あり、すぐにでも禁煙指導に役立ちそうです。
子供の喫煙に悩んでおられる人たちだけでなく、ひろく喫煙されている方々に読んでいただきたい一冊と思い、ご紹介いたします。
(文責;田中奈緒美)
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この本面白い(2)
「元気が出る患者学」
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新潮社 720円
柳田 邦男 著
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柳田邦男氏著作の「元気が出る患者学。」
柳田邦男さんといえば、正統派のルポライターとして有名です。私も、学生の頃、「ガン回廊の明日」というがん治療の最前線を取材した作品を読み、ガン治療の最前線に挑む医師たちの熱い思いに胸をたぎらせた記憶があります。
柳田さんの作品は、それから長い間読む機会はありませんでしたが、飛行機事故を取材した作品や、息子さんの悲しいできごとを取材した脳死治療のこと、最近では医療事故などにも関心をもたれていることは知っていました。それから20年余りの時間がたって柳田さんの著書をまた手に取りました。
ずいぶん昔に、私にある意義深い薫陶を与えてくれた、「生きがい療法」の提唱者である、ちょっと変わり者の「伊丹仁朗先生」が贈ってくださいました。
ときどきこうして本を贈ってくださいます。 昨日の日曜日、この贈っていただいた御本を一気に読みました。今回の「元気が出る患者学」という、この新書は、医師ではないが、かなり医療事情に詳しい立場の柳田さんならではの視点が私にはかなり好感を持って映りました。おそらく皆様もそうでしょう。
この手の本は、医療者自身によるものか、あるいは患者サイドにたつものかの どちらかであるのが普通で、柳田さんのこの本は、どちらかというと患者サイドとはいうものの、医療者側にもそれなりの理解を寄せていてその点が好感をもった理由です。
いくつかの滋味ある言葉の中から、、ある章では、闘病とは「病気」について知ることと、同時に、病気を背負ってよりよく生きるための「生き方」について知ることの「二正面作戦」であるとして患者を励ましておられます。またある章では、医療者に求める患者への対応として、「医療とは、その人ならではの
個性的な人生街道を歩んできた患者と、医学、医療の職業人としての人生を歩んできた医療者が出会う交差点で共同で創る[作品]だ。として医療者を啓蒙しています。
ほんとうに私はこれらの言葉に共感を憶えます。そして医療者も、いつでも患者の立場になりえる存在であること。 たまたまその瞬間、医療者という立場に立つに過ぎないものであること。そんなことを思います。このような患者と医療者の双方の立場に立って、発言できる人は、そう多くはいないと思いますが、であるからゆえにこのような人の存在は、これからの医療のあるべき姿を模索するには大切だと思います。
末尾には、多くの患者会の連絡先や、生き方を教えてくれる参考書がならび、文字通り、元気がでる患者学と題するにふさわしい内容と思いました。
一読をお勧めします。
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この本面白い(1)
「定年教授は新入生」
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集英社 1,600円
徳島大学名誉教授
島 健二 著
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金沢大学を卒業した後、私は大阪大学へ行くことにしました。
加賀百万石とはいっても、大阪に比べれば金沢は本当に小さな街です。北陸の片田舎から出てきた私に、大阪はそして大阪大学は巨大で、目が回りそうでした。
進学した医局の中で出会った先生が、この本の著者である島先生です。
当時は助教授でした。
私の属するグループとは異なりましたが、先生は病棟の回診を担当され、回診の前夜はハリソンの内科書を遅くまで読んでおられた姿が今も思い出されます。
回診は面白くて、随分いろいろなことを教えていただいたように思います。
後に徳島大学の教授になられた先生から、著書が届きました。
題して「定年教授は新入生」。
島先生は、老年病学、糖尿病学の権威で、日本糖尿病学会会長も勤められた、 重鎮であります。
現在は徳島大学を退官されましたが、なんと再び大学共通試験を突破されて、 新入生として、「考古学」の勉強をされています。
その顛末を記したのがこの書ですが、世間巷にいう老人、すなわち「虚弱であり、庇護すべき存在?」という社会的定義に挑戦するという人体実験の様子が述べられてい
ます。
おもしろくて一気に読みました。
内容もさることながら、文を書くというのはこういうことなのかと思わせるほど、ちりばめられた豊かな言葉使いなど、洒落ていて収まりのよい言葉使いは、一層文章を
ふくよかにして読みやすいものに感じました。
教養というのはこういうものを言うのでしょう。
自分の人生もこうありたいと思いながら、もう20年も昔になった先生との出会いを思 い出しています。
高齢化社会が本格的になる今、このような強力な老人が?日本を救うのではないでしょうか。
島先生ありがとうございました。
私も先生のスピリットを見習って、がんばります。
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